第567話 遼香の背中の影

翌日。

カレンたちは解放区へ、

緑箋たちは本部へ。

緑箋と代田はイギリスで溜まっていた雑務を片付けていた。

遼香と朱莉もまたいろいろと業務を遂行しているようだった。

遼香が部屋にいる時は、

緑箋たちもどこか緊張感を持ちながら、

なかなか作業に没頭することはできなかったが、

それ以外は普段通りの時間が流れていた。


遼香の求めなのかはわからないが、

物々しい警護がつくわけでもなく、

粛々と時間は流れていった。

日中が一番危ないと言う感じではあるので、

朱莉はひと時も離れずに一緒に行動しているようではあるが、

特に何かが起こる気配はない。

本部だから外部からの攻撃の確率は高くない。

高くないとはいえ、

ないとはいえないのでしっかりと緊張感を保ちつつではあるが、

比較的安全な場所であるので、

少し緊張感は和らぐ。

外に出るのは危険なので、

外でも公務は基本的には延期されている。

これに対して遼香は文句を言うかと思ったが、

遼香もそれには素直に従った。

なんでも傍若無人に振る舞うように見えるし、

振る舞っている場面も多くみてきたが、

自分の都合だけではなく、

大局的な視点も持ち合わせているので、

判断は的確である。


遼香も朱莉も今日からは定時で家に帰宅することになった。

これは時間を一定に生活することで、

遼香のことを守りやすくすると言うことである。

と言うことで四人は一緒に帰ることになった。


「定時にみんなで家に帰るのは久しぶりですね」


「そう考えるとそうかもしれないな。

一緒に行動していることが多いからあんまり気にしていなかったな」


緑箋と遼香はたわいもない話をしている。

こんな会話こそが今は大事なのだ。


「朱莉さんも忙しそうでしたらからね」


「私はそんなことないんですよ。

でもまあこうやって少し明るいうちに帰るのは久しぶりかもしれませんね」


代田と朱莉もたわいもない会話をしている。


鳳凰寮ではすでに帰っているカレンたちと共に、

たえが迎えてくれた。


「おかえりなさいませ!」


四人揃って、そして全員揃っていることに、

たえは嬉しそうだった。

たえにとっては誰もかけることなく、

鳳凰寮に無事に帰ってきてくれることが何よりも嬉しいのだ。

世界屈指の魔力を持っているもの揃いの寮ではあるが、

あんな予言を聞かされてしまったら、

不安になるのも無理はない。

しかしたえはそんな気持ちを見せずに、

いつも明るく接してくれているのだ。


ただいまと言いながら部屋に戻る前に、

遼香がたえに一言囁いた。

たえは不思議そうな顔をしながらも、

わかりましたとにこやかに対応した。


部屋に帰ってみんなで食事の準備して席に着くと、

なぜか一つ多く配膳されていた。


「あれ?誰かお客様でも来るんですか?」


代田が不思議そうに質問すると、遼香が答えた。


「今日から一人この寮で生活を共にする、

というか私の警備のために一人常駐するといった方が正しいかな」


「あ、そうなんですね。

それでもうやってくるって言うことですか?」


代田の問いに遼香は少し顔を曇らせている。


「来るというかもう来てるというか……」


そういう遼香の背中から黒い影が飛び出した。

みんながびっくりする中、

その影が喋り出した。


「どうも皆さん初めまして!

今日から遼香さんから一秒も離れずに守ることになりました。

そして初めましての方も多いみたいで、嬉しいです!

実は私も遼香隊の一員なんですよ!」


黒い影は影に似つかわしくないほどの饒舌であった。


「てことで、みんな仲良くしてくださいね!

私は」


夕乃ゆうのって言います!と明るく元気に黒い影は名乗った。

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