第560話 堂々巡り

メアリーとの連絡を終えた後、

緑箋はどうするべきか考えていた。

なぜなら何を話したらいいのかがわからないからだ。

遼香は別に情報については隠す必要はないとはいっていたが、

積極的に外に漏らしていい情報ではないだろう。

しかも今回は予言であって、

本当に起こるかどうかわからないし、

何が起こるかもわかっていないのだ。


あの詩から読み取れるのは、

遼香が娘に刺されてしまうということだけである。

どういう状況で、

どういうきっかけで、

遼香が刺されるのかが皆目見当がつかない。

しかも娘とは誰なのか。

遼香を恨んでいるような人間なのか、

それとも何かの敵なのか、

もしくは遼香の行動に関して支持できないと思っている、

過激派のよう存在なのか、

相手については皆目見当がつかない。


しかもそれが相手が狙った行動なのか、

それとも事故なのか、

それについても何もわかっていない。


だからこの情報をどうやって伝えたらいいのか、

緑箋は考えあぐねていた。


基本的には素直に話をすればいいだけなのだろう。

ある有名な魔女の予言で、

遼香さんが女の子に刺されるという予言をされました。

その場所がおそらく白龍寮の前なのではないか、

ということになってます。


これは嘘偽りのない情報である。

だが、これを白龍寮に伝えたところで、

何をどうすることもできないのである。

白龍寮側が気をつけることは何もないのだ。

遼香が白龍寮に行かなければ何も問題は起きない。

つまりこれを伝えることに意味がないわけである。


そもそも白い大きな建物で、

街中にはないという情報だけで、

そんな建物は世界中にいくらでもあるのである。

緑箋は自分がこの世界で一番知っているといってもいい建物が、

白龍寮しかないから、

そうだと思い込んでいるだけという可能性は非常に高い。


メアリーは予言で見た映像の建物に確かに似ているというようにいってくれたが、

もちろん断言はしていないし、

その忠告も受けている。

つまりは何もわかっていないのと同じことなのだ。


遼香が刺されるかもしれないという予言のあまりの衝撃に、

緑箋も実は冷静でいられていないのだ。

朱莉があの時大きく動揺して見せてくれたことで、

逆にみんなは冷静になれたのだと、

朱莉はもしかしてわざとあんなに大袈裟に驚いて見せたのかと、

そんなふうにすら思えるようになってきた。


戦闘に行くということももちろん大変なことで、

命に関わることなのだが、

このように明確に命に関わる事象が起こるというふうに言われた時に、

どのように対処していいのか、

緑箋は本当はよくわかっていなかったのだ。


緑箋はメアリーとの連絡が終わった後、

堂々巡りの考えを頭の中で巡らせていた。



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