第556話 渋々贈るプレゼント

なんだかアップルパイを食べるような気分ではなくなってしまったが、

みんなは粛々とアップルパイを食べている。

気分とは裏腹に、

アップルパイがとても美味しかったからだ。

特にアップルパイなどという食べ物を知らなかったもの、

そしてこの世界でアップルパイが食べられるとは思っていなかったもの、

様々な思いはありながらも、

結局美味しいものは美味しいのだ。

確かに心が暗くなることで、

味を感じられなくなることもあるが、

今は最初の衝撃からは徐々に立ち直りつつあり、

どうやって前向きに対処していくかということを考え始めているので、

結局アップルパイを平らげることになった。


「あら、みんな、全部食べてくれたのね。

あんなにいっぱい作ったのに。

私も作った甲斐があったというものね」


メアリーはみんなの食べっぷりに嬉しそうにしている。


「メアリー様のアップルパイは世界一だからな!

感謝しろよ!」


ウィズダムは相変わらず偉そうであるが、

メアリーのアップルパイが好評だったことは嬉しかったようである。


「こんなに美味しいアップルパイを振る舞っていただいて、

ありがとうございました。

貴重なお話も沢山伺えましたし、

とても有意義な時間になりました」


遼香はあんなことがあったというのにいつも通りの落ち着きで、

メアリーに感謝を告げた。


「呼び出しておいて、不吉な話をして悪かったけど、

遼香はこれを知っておいて損はなかったと思うよ。

それに朱莉さん。

きっと大丈夫だから、そんなに心配しないで。

多分朱莉さんがしっかりしてたらきっとうまくいくよ」


「朱莉はいつもしっかりしているから大丈夫そうですね」


「もう、遼香さん、自分のことなんですよ!」


なんだかんだで朱莉もいつもの調子を取り戻している。

みんなも笑顔になって、その光景を見ていた。


「じゃあそろそろお暇しようかな」


「帰る前に武器を見せておくれよ」


メアリーがそういうので、

ピンときた緑箋と遼香は武器を差し出す。


「確かにこれはすごい武器だねえ」


メアリーは面白そうに武器を手に取ると、

軽く身につける。


「さ、これで大丈夫だろう」


メアリーは何も言わなかったのに、

無月と砕星に魔力を込めてくれたのだ。

流石に魔女である。

分かっているのだ。


「遠くまでわざわざ悪かったね。

悪い話ばかりじゃあれだから。

ほらウィズダム」


メアリーはウィズダムに何かをさせようとしているようだが、

ウィズダムはどうも渋っている。


「メアリー様、こいつらは今日初めてきたんですよ?」


「そうだけど、ウィズダムは気に入らなかったのかい?」


「いやあ……まあ……そういうわけでもありませんが……」


「じゃあほら、つべこべいってないで、やりなさいよ。

無駄な時間をかけるのは嫌いなんだろう?」


「メアリー様に言われちゃったら仕方がありませんね。

もうほんとに仕方なくだからな。

メアリー様に感謝しろよ!」


ウィズダムはそう言いながら、

どこか緑箋たちのことを気に入っているようである。

ウィズダムは大きく翼をはためかせると、

メアリーも一緒に何か魔法をかける、

するとウィズダムの翼から抜けた羽がみんなの胸に優しく張り付いた。


「フクロウは幸福の鳥でもあるからね。

その翼も幸福のアイテムなのさ。

私の魔法も込めてあるから、

まあそこそこは効くだろう。

お守りみたいなもんだよ」


「いやいやメアリー様、

このウィズダムの羽ですよ。

効果は抜群です!」


二人のやりとりを見てみんなは笑顔になった。

胸元のウィズダムの羽は少しだけ輝いた。

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