第555話 予言への対処

「朱莉さん、シルヴィアはああいうふうに当たらないことがないと言ったが、

私の予言詩は当たらなかったこともあるよ。

それに予言詩の通りに起こらなかったこともある。

未来は変えられるよ。

私の予言によってなんとかそれを回避しようとして、

命が助かったものもいる。

予言はあくまでも予言だよ」


メアリーは自分の予言が当たらないこともあると、

キッパリと言い切った。

予言者としてはすごい言葉である。


「本当ですか?」


消え入りそうな声で朱莉は縋るように声を絞り出している。


「そうだ。

これがわかっているのならば、

遼香ならきっと対処できるだろう」


「ああ、任せてくれ。

だから朱莉、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


朱莉はでもでもと言いながら、

少しだけ落ち着きを取り戻し始めていた。

朱莉も強い人間である。

誰に遼香の隣で歩いていない。


「そのほかのことで何かわかることはありませんか?」


緑箋はとにかく情報を聞き出すことにした。


「正直にいうともうあの映像のことはよく思い出せないほど、

私の中からは消えてしまっているんだ。

ただ遼香と出会って、

あの時の英雄が遼香なんだろうという確信に変わったんだ。

場所はなあ、街の中という感じではなかったが、

建物があったような気がするが、

真っ白な大きな建物だったかもしれないな」


場所が特定できないのは仕方がない。

遼香とは住んでいる世界が違うのだ。

もしイギリスだったとしても、

イギリスの有名な建物の近くでもない限り、

どこかはわからない。

これでは遼香がイギリスにいた方がいいのか、

日本に帰った方がいいのかはわからない。


「時間や日付などもわからないんですよね?」


「そうだなあ。詳しい日付まではわからないが、

おそらく日中。

しかも近い時期だと思う」


「それは何か理由がありますか?」


「明るかったから夜ではない、

夕方でも昼でもなかったような気がする。

それと日の高さの感じは今と変わらなかった感じがするから、

おそらくは近日中の出来事だと思う。

一年後や二年後に起こらないとも言えないが、

なんとなく遼香の感じから、

例えば老後になった時の光景ではなかったように思う」


「相手のことは何か覚えていますか?」


「そうだなあ。

やはり詩に残したように娘だったという感じだな」


「それは大人ではないというかんじでしょうか?」


「その通りだ。

子供だったんだろう。

もちろん小さな女性だったということもあるが、

私は子供だったと思ったということだな」


これ以上みんなも他に聞けるようなこともないので、

部屋には沈黙が広がった。

シルヴィアがそんな部屋の中で重い口を開けた。


「どうする、遼香?

私たちの方としてはいつまででもこちらに滞在してもらってもいいんだが」


「いや、予定通り帰ることにするよ」


「遼香さん!?」


「朱莉、心配してくれるのは嬉しいが、

予定はそのまま日本へ戻ろう。

イギリスにいても埒が開かないし、

日本の方が対処がしやすい。

日本に帰ってすぐという感じでもなさそうだしな」


遼香は勤めて冷静に対処している。

朱莉は遼香が落ち着いているので自分が取り乱してはならないと、

今一度気合いを入れ直した。

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