第554話 予言詩の中身

日が昇り照らす英雄の姿

深淵から覗く深き闇が現れ

娘の手に流れる血は貫かれた胸に

落ちる命に向けられた叫び声は虚空にかき消えた


もう一度メアリーの予言詩を確認した。


「これを映像で見たということですね」


「その通りだよ」


「詩では曖昧な表現になっていますが、

この人が誰かということはわかるんでしょうか?」


予言詩はわざと曖昧にして、

あらゆる事象に対して触手を伸ばしている。

そして当てはまるものを勝手に想像させて、

当たっていると思わせるのだ。

しかしこの予言詩はそうではないということらしい。

見えた映像を詩にしたためているのなら、

本人に決めが誰かはわかるはずである。


「当たり前の疑問だと思う。

でもね残念ながら誰かというところまではわからないんだ。

私が知ってる人の場合は、

この人がって記憶に残るんだけど、

私が知らない人の場合は、

姿形は曖昧な形になってるんだよ。

そしてそこから詩にしたためている間に、

その映像は曖昧模糊として消えそうになってしまうんだ。

おそらくその予言の映像が、

本当に起こるか起こらないかの流れの中にあるからなんだろうと思っている。

事実ではないからあやふやになっていくんだろう」


「そういうことなんですね。

ただ誰かが刺されるというのは見えたということですね?」


「ああ、それは間違いない。

立派な服を着ていたから英雄と表現したんだが、

おそらくこれは遼香だろう。

今会って確信したよ」


メアリーがあまりに普通にいうので、

周りの人間は驚くのが遅れてしまった。


「ちょっと待ってください!

遼香さんが誰かに刺されるっていうことですか!」


朱莉が珍しく混乱している。

あまりにもありえない、信じたくない予言を言われたからだろう。


「朱莉、落ち着いて、まだどうなるかは確定していないんだから」


遼香もいつもとは違って真面目に朱莉を落ち着かせる。


「だって、遼香さん、

今メアリーさんははっきりと遼香さんだって言ったんですよ?

シルヴィアさん、メアリーさんの予言は当たるんでしょう?

冗談ではないんですよね?」


朱莉は遼香に抱き止められながらも、

質問を矢継ぎ早にぶつける。

なんとしても遼香の無事を確認したいという気持ちしかないのだろう。


「朱莉さん、お気持ちは察します。

しかしここでは正直にお伝えいたしますが、

メアリー様の予言について、

私は外れたところを見たことはありません」


いやあああああ!!!!

と叫んで朱莉は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

遼香はしっかりと朱莉を抱き止める。

その光景は今までのアップルパイパーティとは真逆の光景だった。


「メアリーさん、予言を回避することはできないんですか?

何かこの予言を起こさない方法はないんですか!」


朱莉は半狂乱になりながらも、

なんとかこの状況を好転させたいと頭をフル回転しているようだった。

遼香のためになんとかしなければならないという気持ちが、

朱莉のわずかな理性を保たせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る