第552話 予言詩

「これは一体……」


シルヴィアはこの詩の重々しさに少し驚きを隠せなかった。


「今回みんなを呼び出したのは、

この詩を聞かせたかったからなの」


メアリーは意外とあっけらかんとしている。


「この詩はどういうものなんですか?」


「メアリー様は預言者でもあるんです。

このように特別な詩を授けてくれることがあるんです。

魔族との戦いのことも多いですが、

個人の健康のことなんかも詩で予言してくださるんです」


予言者である。

この世界においては預言者というのはいても不思議ではない。

緑箋にとっても驚くような話でもない。

咲耶は予言ではないが、

未来のことが見えた時によく話をしてくれた。


この世界でもそうだが、

予言でも未来でも見えるものというのはいるが、

それは確定された出来事ではない。

選択しなかった幾つもの並行世界があるかどうかまではわからないが、

このように見えた未来も何かの拍子に変わることがある。

その何かが起こらないのが予言なんじゃないかと思われるかもしれないが、

予定と予測はうまくいかないのが常なのである。


今回魔女であるメアリーが詩を出してきた。

予言詩と言えばノストラダムスの大予言である。

当時は諸世紀と呼ばれていたが、

誤訳であり、

ミシェル・ノストラダムス師の予言集と呼ばれている。


ノストラダムスは16世紀のフランス、プロヴァンスの生まれである。

医学を学び医師としてペストの治療にあたったとされている。

ノストラダムスのことを持ち上げるに当たって、

ペストの終焉に影響力があったという逸話もあるが、

基本的には普通の医師だったようである。

ただ本当に現地でペストの治療に当たっていたにもかかわらず、

本人はペストにかからなかったことは、

その神秘性を増す要素になったのだろう。


一方占星術師としての執筆も初め著作を残している。

その中にミシェル・ノストラダムス師の予言集もある。

四行詩の形式で残された詩は難解で、

解釈は読み手に委ねられてしまう。

その中で歴史的事実と照らし合わせて、

的中したという話になっていく。


実際に王妃カトリーヌ・ド・メディシスら王族や貴族にもてはやされるようになり、

国王シャルル9世の常任侍医兼顧問に任命された。

このようなこともあってノストラダムスの神秘性はさらに増していくことになる。


とはいえ、本国フランスではノストラダムスの評判はそれほど高くない。

そのノストラダムスが日本でこれほど評判になったのは、

五島勉先生の「ノストラダムスの大予言」が当たったからである。

1973年に発売されたこの本は、

当時の漠然とした世界情勢の不安を上手に盛り込み、

そしてかの有名なアンゴルモアの大王のインパクトによって、

大ベストセラーとなる。

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