第551話 詩

遼香も朱莉もカレンもシルヴィアも、

美味しそうにアップルパイに夢中になっていたし、

緑箋もアップルパイが大好物で、

このリンゴがむしろ酸っぱいリンゴなので、

よりアップルパイになった時の絶妙な甘さと合っていて、

舌鼓を打ちまくっていた。

美味しいです美味しいですという言葉しかみんなの口からは出てこないほど、

美味しいアップルパイを食べ続けていた。


代田は相変わらずこのレシピはどうやってとメアリーに聞いてみるが、

メアリーは簡単にレシピを教えてくれた。

たえちゃんに教えてあげなさいという言葉と共に。

代田はありがとうございますというと、

メアリーがたえのことを知っていることに時間差で驚いた。


「あれ私、たえの話しましたっけ?」


代田が恐る恐る尋ねる。


「話してないけどわかるんだよ。

なぜなら魔女だからね。

あははははは」


メアリーは心から楽しそうに笑っている。


「やっぱり、すごい魔力をお持ちなんですね」


代田は呆気に取られている。


「すごい魔力でもなんでもないよ。

ちょっと魔法を齧ったら誰でもできるようになるよ。

こんなのは遼香やシルヴィアもよくやってるだろう?」


「確かに私が考えてることが手に取るように知られている、

そんな感覚になることがあります」


「そうだろう。

でも代田さんだってそんなことはあるだろうし、

自然と行なってるだろう?

魔力探知をしなくとも、

言葉は違うかもしれないが、

気配とか気とか、そういうのを感じることがあるだろう?」


「そう言われてみるとそうですね。

敵とか生き物とかの気配は確かに感じますが、

流石に相手の家族構成みたいなものまでは分かりませんよ?」


「あははは、代田さんも面白いことを言うじゃないか。

その通り、確かに家族構成がわかる人は少ないかもしれないねえ」


メアリーは上機嫌である。


「それで今回はこのアップルパイを食べさせるために

お呼びになったわけじゃないんですよね?」


そのアップルパイを食べながらシルヴィアは質問する。


「まあ、珍しい客人がきてるってわかったから、

アップルパイを振る舞っとこうと思ったってのもあるんだけどね。

もう一つ大したことじゃないんだが、

詩を聞かせておこうと思ってね」


「やはりそうですか。

その詩が日本から来た皆さんと関係が深いということなんでしょうか?」


「そうだね。

私の能力というか私の趣味みたいなもんだけどね。

詩を紹介してもいいかな?」


「もちろんです。お願いします」


シルヴィアはアップルパイを食べながらも、

その詩について早く聞きたいというそぶりを見せている。


「じゃあ読むからよく聞いとくれ」


日が昇り照らす英雄の姿

深淵から覗く深き闇が現れ

娘の手に流れる血は貫かれた胸に

落ちる命に向けられた叫び声は虚空にかき消えた


メアリーはゆっくりと詩を読み上げた。

今までの幸せな雰囲気を一気にガラッと変えた。

アップルパイには少しだけ相応しくない詩だった。

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