第550話 アップルパイパーティ

メアリーはウィズダムの口から指を離すと、

流石にウィズダムも気まずそうにしている。

本当フクロウの表情はわからないのだが、

そう見えたのだから仕方がない。


「さあ、ではみなさん、デザートの方もいかがでしょうか?

今日はアップルパイを焼いたんですよ」


喋る猫がアップルパイを持ってきてくれた。

確かにこの館に入ってからずっと香ばしい匂いがしていたなと、

緑箋は感じていたが、

それはアップルパイだったのだ。

運ばれてきた長方形に長いアップルパイからは、

バターの匂いとりんごの甘酸っぱい香りが部屋中に広がっていた。

メアリーはアップルパイに手をかざすと、

アップルパイは均等に切れていく。

ナイフではこんなに上手く切れずに、

バラバラになってしまうので、

魔法はやっぱりいいなと緑箋は思っていた。


切り分けられたアップルパイは浮かんで、

テーブルの上の小皿に並べられていく。

すでにフォークも用意されている。

緑箋はなんか本当に魔法の世界に来たんだなと、

なぜかこの魔女の館での振る舞いを見て強く感じてしまった。

あまりにも緑箋が思い描いていた魔法が、

魔女の魔法として使われているからだろう。


「さあ、熱いうちに食べてみて。

もう火傷もしないだろうからね、

サクサクのアップルパイ、召し上がって。

お口に合えばいいけれど」


メアリーはみんなに促す。

みんなはその声に待ち切れないようにアップルパイを食べ始める。

サクサクのパイ生地はバターがたっぷりで、

その中には程よく甘く味付けされたりんごが半分入っていて、

甘さと酸っぱさが口の中に広がっていく。

さっくりしたりんごの歯応えとパイ生地のサクサク感が、

口の中に喜びを届けてくれている。


「これは美味しいです!」


代田は相変わらず初めての食べ物に興奮しているようだった。

あっという間に食べ切ってしまうも、

メアリーがまたお皿にアップルパイを乗せてくれる。


「たくさん焼いてるからね、

いくらでも食べておくれ」


それをみた他の人たちはなぜか急ぐようにアップルパイを書き込むと、

おかわりをおねだりするようにメアリーに目配せをする。

メアリーは喜んでお皿にアップルパイを供給していく。

緑箋はこの世界に来て、

アップルパイがこんなにたくさん食べられる日が来るとはと、

夢のようなひと時を味わっていた。

まあ、魔法が使える世界というだけで、

夢のような世界ではあるのだが。


周りにはウィズダムだけではなく、

猫や犬、ウサギにリスにネズミに、

フェアリーやニンフやドワーフのようなよくわからない生き物たちが、

美味しそうにアップルパイを食べ始めていた。

さながらアップルパイパーティである。

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