第547話 大きな樹の下で

「よくきたな」


急に後ろから声をかけられて、みんなは声の主を探すと、

いつの間にか門の上にフクロウが止まっていた。


「メアリー様が待ってる。

門を開けてやる」


蔦が伸びているいかにも重そうな樹の扉だったが、

音も立てずに開いていった。

門の中には美しい光景が広がっていた。


深い緑の葉を茂らせた巨木が、

まるで館を包み込むように天に向かって伸びており、

古びた石造りの館はもうすでに樹と同化していた。

木漏れ日が差し込む薄暗い館の入口は、

まるで物語の世界に出てくるようだった。


「なんかおとぎ話の世界みたいですね」


朱莉がウキウキとして話している。


「ほらほら、突っ立ってないで、さっさと来い」


館の前でフクロウが待ちくたびれている。

巨大な樹の根元の館に近づくと、

館の扉が音もなく開いていく。


「メアリー様がお待ちだよ」


フクロウは館の中へ案内するように先に飛んでいく。

一行は息を潜めて館の中へと足を踏み入れた。

館の中は、自然の光に包まれており、

足元には光るキノコが綺麗に生えている。

壁には、様々な絵が飾られていて、

この辺りの風景画だろうか、

綺麗な景色や、

美しい女性の絵、

見たことのない不思議な草花の絵が並んでいる。


「絵なんか見てないで、こっちだこっち」


フクロウに急かされて廊下をまっすぐに進む。

途中に左右に廊下が分かれているが、

その奥の方にも絵や部屋が並んでいる。

満月の書かれた美しい扉の前でフクロウは止まった。


「メアリー様、客人を案内したしましたよ」


満月の扉が静かに開く。

フクロウはいち早く中へ飛んでいく。


フクロウが導いた部屋は、まるで月の中のような神秘的な空間だった。

天井には、大きな天窓が開けられ、

そこから差し込む明かりが部屋全体を銀色に染めている。

壁には、様々なハーブや鉱石が整頓されて置かれていた。

その中には、緑色に光るクリスタルや、

赤く輝く花など、見たこともないようなものが含まれていた。

緑箋はどこか天翔彩の部屋や薬学研究部の部室のことを懐かしく思い出していた。


中央には満月の形の大きなテーブルが置いてあり、

その奥に一人の女性が座って待っていた。


彼女は、満月の夜に降り注ぐ銀色の光を思わせるほど白く、透き通っていた。

深淵な青色の瞳は、宇宙の奥底を覗き込むような神秘的な輝きを放ち、

美しく長い黒髪は、漆黒のヴェールのように彼女の肩を包んでいた。

深い青色のローブには、月の満ち欠けや星座が刺繍されており、

夜空を纏っているようだった。


透明な肌で若いのか歳をとっているのか全くわからないが、

その輝きとオーラから、

相当な魔力を持っていることは伝わってきた。


「皆さん、急に呼び出してごめんなさい。

シルヴィアも元気そうで何よりだわ。

そして日本からの皆さん、ようこそおいでくださいました。

私は」


メアリー・レディ・キダーミンスターと申しますと美しい声で名乗った。

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