第544話 遼香の思っていた案

「緑箋さんのおっしゃる通りで、

なかなか魔力を探知するというのは難しいもので、

魔力は世界に満ち溢れているものですから、

そこの細かい違いを感じ取るというのは、

相当な鍛錬が必要です。

今回は緑箋さんのおかげでとても効果的にことを運ぶことができました_


「僕のおかげというよりは、

無月のおかげですから、

無月を作ってくれたみんなのおかげですね」


「もちろんそうなのですが……」


あまりにも緑箋が当然だというように話すので、

シルヴィアもそれ以上は何も言えなかった。

その武器のことをちゃんと使いこなすだけでも大変なことを、

シルヴィアはよく理解している。

しかし緑箋は全くそのことを気にしていないし、

むしろ周りの人たちへの感謝しかしていないのだ。

シルヴィアは緑箋の本当の力は、

そういうところにあるのかもしれないと思い始めていた。


「なんにしてもまず一つうまく行ってよかったです」


流石に緑箋もうまく行ったことに関してはほっとしている。


「この魔族の魔力効果を消すというのは、

遼香の砕星でもできるんですよね?」


「もちろん可能です」


「じゃあ遼香が魔力を消す方をやりたがったんではないでしょうか?」


シルヴィアは遼香のことを知っているので、鋭い質問をする。


「もちろんそうです。

一人一人腹を殴るという案を最初に提示されました」


緑箋はその時の遼香の真剣な表情を思い出すと、

心の底から震えが止まらなくなってくる。


「それは私が却下しました」


朱莉がビシッという。


「確かに時間がかかりますからね」


「いえ、遼香さんなら姿を消して高速移動して腹を殴るということは、

もしかしたら実現可能ではないかと思うこともありました。

ただ直接星砕を当てないといけないので、

もしかすると相手に与える影響が大きすぎるのではないかという心配があります。

実際問題突き抜ける衝撃があります」


緑箋は今遼香に殴られたかのようにお腹をさすりながら話した。

もちろん緑箋たちは自分の身で確認済みである。

刀で体を斬る衝撃の方が影響は大きそうだが、

斬られた事を感じないくらいの切れ味のある無月だからこそできた技である。


「極秘裏にやるとなると向いていなかったという事ですね」


「そういう事です」


高速移動で全ての人間を一瞬のうちに殴っていく遼香の姿も見てみたかったが、

姿を消しているので見えないし、

講演中に分身させて攻撃するというのも実践的ではないので却下された。


遼香は渋々緑箋の方に合わせることにしたのだが、

おそらく今でも高速で大勢を殴ってみたかったという気持ちは持っていただろう。

訓練以外で合法的に人を殴るという機会はなかなかない。

試合や戦闘とは違うが、

実戦と訓練では得られる経験値は段違いである。

そういった意味で緑箋はとてもいい機会を得たとも言えるのだ。

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