第543話 作戦の成功と訓練と

緑箋は無月を伸ばしてみせた。

武器を巨大化したり軽量化するのはよくあることである。

ただそれを相手に命中させるのは難しい。

見た目に分かりやすい攻撃は簡単に防御されてしまうし、

避けられてしまうからだ。

巨大化すればいいものでもないということは、

がしゃどくろとの戦いでも思ったことである。


「こうやって夢月の刀身を伸ばしまして、

水平に振ったわけです。

これでうまく行ったのは、遼香さんの助言と、

講演でのうまい誘導があったからです」


「確かにそうですが、

この長い刀を水平に振るっていったって、

簡単にできるものではないでしょう?」


「それに関しては先輩に教えていただいてますから。

意外と得意分野かもしれません」


緑箋は幽玄斎との訓練を思い出している。

刀が伸びるというのはゲームや漫画の世界で緑箋には慣れ親しんだ光景で、

それを魔法で行うこと自体は難しいことではない。

ぶれなく真っ直ぐするのは緑箋の性格にも良くあっている。

もちろんこの長さになると横に振るのはは大変だが、

重さは適度に軽くしながら、

しっかりを重さを感じつつ振ればいいだけである。

ただこれも大規模戦闘を行うのを見越して、

幽玄斎に教わって練習して特訓してきた成果の現れでもある。

正確に刀を振るためにわざと刀身を長くして、

遠くの敵を切り刻んだりしてきたので、

今回の作戦はそういった今まで培ってきた練習の賜物である。

緑箋はそういったことをシルヴィアに説明した。


「何が役に立つかわからないということではなく、

自分を高めるために訓練を積み重ねてきたということですね。

素晴らしいです。

これは我々も見習わなければなりません」


「そんな大層なことではありません。

みんなで楽しんで訓練しているだけですから」


緑箋にとってみれば漫画やゲームの世界の出来事を本当に体験できる、

この上ない悦びなのであるが、

周りからは真面目な訓練として捉えられてしまうことが多い。

それは実は緑箋が楽しみながらもいつも本気で、

失敗しても何度も繰り返し訓練し続けているからなのだが、

そのことに緑箋は気がついていない。

この世界に来て楽しいことばかりだからである。


そういう話をしているうちに、

倒れた人たちも回復してきた。

今までの記憶を全て失っているわけではないが、

ところどころ記憶の欠落もあるようである。

取り調べもかねてであるが、

入院することになったようだ。


「魔族の残留魔力についてはこちらでも定期的に確認してはいるのですが、

なぜ今回は見つからなかったのでしょうか?」


「おそらくは隠されているからでしょう。

まあ、隠しているというよりは本来の自分の魔力の中に、

魔族の魔力があるので、

深い場所まで魔力探知が届かずに、

表層的な魔力を受け取ってしまうからでしょう」


緑箋はそう説明しつつ、

これはカレンの魔力を検出した時にみんなで考えた仮説であることも伝えた。

ある意味とてもいい具合に情報が揃っていたのは、

カレンのおかげである。

今回の作戦が成功に導けたことはこういった偶然が重なったからであり、

そしてそれはおそらく必然だったのであろう。

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