第542話 緑箋の仕事ぶり

シルヴィアは一息つくと、

少し落ち着いて緑箋に話しかけた。


「それにしても緑箋さん。

遼香に言われた通りに私たちは見守っていました。

倒れたものはアスモデウスの魔法を失ったことと、

魔力の急激な減少によって倒れたようですが、

本当に遼香のいうようなことが起ったんでしょうか?」


「先ほど皆さんにもお見せして体験していただきましたが、

あれと同じことをやっただけです。

ただやはり簡単ではありませんでした」


緑箋はシルヴィアの部下たちに見せたように、

魔力を込めて無月で斬っただけである。

訓練を続けた結果、

無月は緑箋が魔力を込めた場合、

魔族の魔力にしか効果がないことがわかっている。

この状態で普通の人間を斬った場合、

物理的に斬れているはずだが、

魔族の魔力にしか効果がないため、

人間の魔力には何の反応もせず、

ただ体を通り抜けるだけということになる。

もちろん魔力を込めなければ普通の刀と同じように普通に斬れる。

今回はアスモデウスの魔力にのみ反応して、

アスモデウスのかけた魔法がなくなったというわけである。


しかしこれにはさらに条件がある。

無月で直接斬らなければならないのだ。

そこで緑箋と遼香が考えたのは、

無月を延ばすことである。

例えば遼香が思いっきり拳を振り出せば、

あの会場の全ての人を吹き飛ばすことはできるが、

直接砕星を当てなければ意味がない。

同じように無月から魔力のこもった斬撃を飛ばすことで、

多くの人間を一度に斬る事もできるが、

それではもちろん意味がない。


物理的に当てるには刀を伸ばして真横に斬る、

ただそれだけである。

遼香が姿勢を正させたのは緑箋が斬るときの目安となるように、

しっかり背もたれから体を出させる事であり、

一人も背筋を伸ばしていないことを見極めるためであった。

そして遼香が大声を出して衝撃を与えたのは、

斬られたときの衝撃を感じさせなくするためである。

体に影響はないとはいえ、

違和感は残るからである。

命にも体にも影響はないとはいえ、

流石に刀で斬られるのは誰でも嫌だからだ。


正直いって今回やったことは褒められたことではないし、

問題になることなのかもしれないが、

周囲に回復班を展開し、

安全性を担保した上で行われた行動ではあった。

それによって緑箋が斬って浮かび上がらせることに成功した、

アスモデウスの脅威については確かな収穫でもあり、

そして今回反応が出なかった人間については、

少なくともアスモデウスの魔法によって操られていないということはわかった。

もちろん個人的に魔族と関わっている人間がいないとは限らないが、

その人間であってもアスモデウスや魔族の影響下にない、

ということだけは確認できたわけである。

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