第541話 講演と作戦と

遼香はみんなの腕をもう一度上げさせた。

全員の腕が上がったところを確認してから話し始める。


「ではみなさんそのままの格好で、

今から私が大きな声を出します。

腕が持っていかれるような反応があるかもしれません。

今回は少しだけお腹に力を入れてください。

少しだけです。

無理矢理に声に抗おうとしなくても結構です。

ただ私の声をどう感じるかということを念頭に入れて、

少しだけ魔力を感じてみてください。

では行きます」


会場に少しだけ緊張感が漂う。

遼香がすうと息を吸う。


「はっ!」


遼香が息を出すとともに声が発せられる。

会場中のものがビリビリと振動する。

会場の中の三人の手が下に下がり、

即座にその人の元へ係員たちが駆けつける。


「みなさんも手を下ろしてください。

今、私の声に反応した方は、

魔力が効きすぎてしまった可能性もありますので、

大事をとって休んでいただきます」


手を下げた人は受け答えにはしっかり反応しているが、

体から力が抜けたような感じになっている。

係員が即座に別室へ連れて行った。


「ではみなさん気を取り直していきましょう。

今効きすぎた方たちもいらっしゃいましたが、

意識はしっかりしています。

魔力の影響を受けたというよりは、

魔力の流れが良くなって、

体のバランスが少し崩れたということです。

ただこれはすぐに回復して、

以前よりも魔力の状態が良くなりますのでご安心ください。

みなさんも倒れなかったとしても、

少しだけ体の中の魔力の巡りが良くなった、

そんなふうに感じている方もいらっしゃると思います。

気のせいと思われる方もいるかもしれませんし、

実際に気のせいかもしれませんが、

魔力を注入してそれを受け取ることは、

とても効果的なんです」


遼香の話は続く。

緑箋たちはすでに別室へと戻っていた。


部屋にはシルヴィアたちがいて、

倒れた仲間を見ていた。


「みなさんお疲れ様です。

今三人を介抱しながら調べているんですが、

やはりアスモデウスの魔法効果があったということが、

簡易検査で確かめられました。

諜報部の方でもこの三人の動向について調べておりますが、

今のところは怪しいところはないそうです」


三人は眠らされていて、

魔法で記憶を確認されているようである。

アスモデウスの魔法の残滓がやはり残っていたということで、

どの程度の魔法の影響があり、

相手に情報などの伝達があったのかはこれから調べることになりそうである。

ただ人数が少なかったことと、

士官などの階級の高いものはいなかったので、

そこは安心材料であった。


「しかし実際にこうして結果を目の当たりにすると、

気を引き締めなければなりませんね。

どこから仕掛けられたのかまで辿れればいいのですが、

こちらで調査を続けていきたいと思います」


シルヴィアは神妙な顔で話した。

講演の中とは裏腹に、

部屋の中には緊張感が漂っていた。

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