第539話 特別訓練

実際にシルヴィアは今回の作戦に参加するイギリス側の人々を読んで並ばせた。

すでにシルヴィアは作戦について説明しているのだが、

どう考えても不安そうであった。

しかし今遼香たちの様子を見ていたこともあり、

覚悟を決めたようである。

もちろんシルヴィアも並んでいる。

全員が配置についたところで、

遼香が緑箋に目配せをする。

こういう時に逡巡するのが一番よくないことを緑箋は訓練で何度も学んでいる。

静かに深呼吸した後に、何も言わずに行動する。

あたりは何も変わらず、そしてシルヴィアたちも何も変わっていなかった。

無事にことが終わったのかどうかも、シルヴィアたちは気が付いていない。


「もう終わりました」


緑箋がそういうとみんなは本当にという顔をしているが、

本当に終わったことは遼香がしっかり説明してくれた。

シルヴィアたちも半信半疑ではあるが、

遼香の言葉の重みはみんな感じているようで、

なんとなく納得をしていないような納得の仕方だった。


「しかし本当に何も感じなかったのですが、

本当に本当なんですよね?」


シルヴィアは今も信じられないというような顔である。


「何もなければ何もないということだよ。

これでうまくいきそうだな」


遼香は緑箋に話をふるが、

緑箋は頭を大袈裟に振る。


「いつもとは全然違いますよ。

これから練習あるのみです」


今までとは違うの要素がかなりの失敗の確率を高めてしまう要素である。

緑箋はみんなに協力してもらって、

何度も何度も練習を重ねた。

今回は訓練室ではないので、実戦である。

緑箋は周りの魔力を効率的に使えるとはいえ、

実戦で何度も訓練をすることは流石に魔力の消費も激しい。

もちろん疲労回復の魔法を効果的にかけてはもらってはいるが、

脳の疲労度も大きい。

しかし緑箋は妥協することなく、何度も同じことを繰り返す。

集中力を高める魔法もあるが、

それに頼ると本番で変わってしまうことが怖いということで、

普通の状態で興奮度を高めつつ冷静に何度も訓練を繰り返した。


初めは半信半疑だったイギリスの関係者たちも、

緑箋が時間ギリギリまでずっと集中力を切らさずに、

訓練を続けている姿を見ていると、

自然と心を打たれ始めてきているようだった。

緑箋は単純に今回の作戦を成功させることしか考えていなかったが、

誰かに認めてほしいなどという邪な欲がないことが、

逆に周りにもいい影響を与えてきていた。

真摯に物事に向き合うことをこの世界で学んでいた緑箋は、

素直に努力をすることを覚え始めていた。

一人の努力の姿が多くの人間に好影響を与えてくるようになっていた。

それは緑箋がこの世界にきてもらった一番の才能だったのかもしれない。


遼香や朱莉や代田はいつも見慣れた光景ではあるが、

ここぞという時の集中力の高さにはやはり感銘を受けていたし、

遼香がこの作戦を思いついたのも、

いつもの緑箋を見ていて信頼している証でもある。


時間ギリギリまで訓練は続いた。

緑箋は一旦控え室に戻って休憩することにした。

作戦開始まで刻一刻と時間は迫っていた。

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