第529話 武器と人と

シルヴィアを待つ間に、

代田が手に入れたミョルニルレプリカをみんなで確認していた。


「遼香さんはこのハンマーどう見ますか?」


「どう見るって言ってもなあ、これは私が使える武器じゃないね」


遼香はハンマーで自分の手をトントンと叩きながら、

感触を確かめるようにしている。


「それはどういう感じでしょうか?」


「どういうって言ってもなあ。

私向きの武器じゃないってことだよ。

投げても帰ってくるってのは便利だけどね」


遼香はハンマーを投げるような仕草をしたが、

本気でやるとこの建物を壊しかねないので、

やめておいたようだった。


「遼香さんだったら別に扱えると思いますが。

苦手とかそういうことでしょうか?」


「ハルダヴェルグも言ってたが、

単純にこの武器には選ばれてないね。

やっぱり武器からも選ばれないと、

いざという時に信頼が置けないよ。

それに私の攻撃方法とも相性が良くないね」


遼香のように直接攻撃を仕掛けるのは、

この魔法世界では珍しい。

もちろん剣や槍、もちろんハンマーなどで戦うものもいるが、

それはあくまでも最終手段である。

遼香のように最初っから拳一つで突っ込んでいくような魔法使いはいない。

遼香はもちろん魔法使いとしても一級品であるが、

その魔法よりも自分の肉体を相手にぶつけるほうが好きなようだ。

そしてその戦い方は実は魔法使いにとってはとても相性が悪かったりもする。

いきなり殴られるということはほとんどないからだ。

遼香ほどの実力者がいきなり目の前に現れて、

殴りかかってくるというのは、

魔法使いにとって恐怖でしかない。


格闘技を見るのが好きだった緑箋にとっては、

遼香の格闘というのは初めて見るものではなかったので、

対処することがしやすかった。

もちろん映像と実戦では全く違うものなのだが、

魔法という想像力を使う世界において、

それを知っているのと知らないのでは大きな違いがある。

そこが緑箋の強みであり、独創性の高さでもある。

遼香が緑箋を気に入っているのは、

この魔法世界において魔法という概念に縛られない自由な発想があるからであり、

遼香もそういう自由な発想で戦ってきたからこそ、

話が合うのである。


そんな遼香にとって投擲武器のように使えるミョルニルレプリカは、

あまり合わない武器なのだろう。


「遼香さんだったら、どんな武器でも使いこなせそうですけどねえ」


代田はそう言いながらハンマーを持つ遼香を見ている。


「まあ、使えるか使えないかでいえば使えるし、

使わざるを得ない時に武器を選んではいられないから、

使うことになると思うが、

自分の武器として持つには合わないってだけだよ。

代田がこの武器に選ばれて、

自分も選んだんだから、

それが一番大切なことなんじゃないか。

滅多にないことだよそんなことは」


遼香はハンマーを代田に返した。


「遼香さんも緑箋さんもすごい武器を持ってますけどね」


「滅多にないけど、ないわけじゃないからな」


武器に選ばれた三人は笑った。

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