第526話 代田に似合う武器

「代田にピッタリなのは、これだろう?」


ハルダヴェルグはそう言って代田に手渡した。


「これは槌ですか?」


「ははは、日本語じゃそうだな。

こっちではハンマーだ」


「ちょっと待ってください?それってもしかして、

ミョルニルじゃないですか?」


緑箋は相変わらずファンタジーの話に目がない。

一眼見て興奮している。


「おー緑箋、よく知ってるじゃないか。

でも流石にミョルニルの本物じゃない。

レプリカだ」


柄は短く少し不恰好である、

複雑な模様が刻まれており、まるで雷雲が渦巻いているようだった。

頭部は四角錐の形をしたシンプルなもので扱いやすそうである。


「これは手にしっくりきますね」


代田はハンマーを軽く振る。

すると小さな雷が落ちる。


「おいおい、こんなところで振るなよ!

工房が燃えちまうだろう」


ハルダヴェルグはそういいながらも笑っている。


ミョルニルである。

前の世界で言えば、世界最強の武器の一つと言ってもいいだろう。


北欧神話の最強神と言ってもいいトールの主要武器である。

古ノルド語で「粉砕するもの」という意味の名前で、

実際にトールはこのミョルニルを使って、

多くの巨人を撃ち殺した。


元々はドワーフのブロックとエイトリという兄弟が作ったもので、

グリンブルスティ、ドラウプニルと同時に制作された。


エネルギーがすごく、赤く燃えているとも言われ、

ヤールングレイプルという鉄の手袋と、

メギンギョルズという剛力のベルトが必要だったそうだ。


ただ便利な武器で、

どこへ投げても自分の手元へ戻ってきたり、

大きさも自由に変えられるという。


また死者を生き返らせる能力もあり、

トールの戦車を引いているタングリスニとタングニョーストという、

二頭の雄山羊を食べて骨だけにしても、

ミョルニルを振るって生き返らせたという話である。

ある意味自分の戦友とも言える山羊を食べてしまうというほどの大食漢であり、

それを生き返らせてまた戦車を引かせるという、

食べられる山羊の気持ちを考えるとかなり複雑な話である。


トールといえば雷属性であり、

その武器であるミョルニルも雷属性とされている。

ミョルニルに雷を出す性質があったのか、

トールが使ったから雷が出たのかはわからないが、

そういうものなのだろう。


単純に鉄の塊を勢いよく投げても、

帰ってきてまた使えるというだけでも、

恐ろしい武器ではある。


「本当にこれを使わせていただいてもいいんですか?」


代田はどうやらミョルニルレプリカが気に入ったようである。


「武器ってのは飾るもんじゃないからな。

実際に使ってなんぼだよ。

まあ本当のことを言えば使う機会がない方がいいんだろうが、

そうも言っていられない時代だ。

代田のようなやつを待っていたのかもしれない。

巡り合わせってのはそういうもんだよ」


代田が持つミョルニルレプリカを見て、

ハルダヴェルグはよく似合ってると満足そうである。


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