第524話 魔族が狙う先

「そうなると問題がいくつかある」


「問題というと?」


「まずこの武器のことが魔族に知れた場合、

優先的な攻撃対象となるってことだ。

もちろん普段からこの武器を狙う魔族が増えるかも知れない」


詳細については語っていないが、

すでに化け狸たちは無月のことを知っている。

がしゃどくろを切った情報がどこまで魔族に通じているのかはわからない。


「カレンさんはこの武器について何か知っていましたか?」


緑箋はカレンに聴いてみた。


「いえ、私は全く知りませんでした。

私がそういう情報に疎いということもあるのかも知れないですが、

多分誰も知らないと思います」


「それはどういった理由でしょうか?」


「単純に魔族は人間のことに興味がありませんし、

人間の武器が魔族特効があるという話があったとしても、

誰も信じないでしょうし、

真剣に話を聞く魔族はいないです」


「確かに、人間をそういう目で見ることがないんでしょうね」


「バカにしているわけではないんですが……」


カレンはなんだかとても気まずい話をしてしまったという顔をしている。

魔族にとっては人間は取るに足らないものなのだろうから、

当たり前の話ではあるのだ。


「あの、それに関連してですが、

レヴィアタンが人間に負けたという話を聞いたことはありますか?」


「レヴィアタンですか?

いえ、それも聞いたことはないですね」


「噂でもですか?」


「ああ、噂ですか……。

確か、日本に遊びに行って帰ってきたみたいな話は聞いておりますが、

負けたとか戦ったとかそういう話は聞いてませんね。

ただ、一ヶ月くらい姿を見せなかったという話は聞いてます。

ちょっと気分が乗らないという話だったように思います」


レヴィアタンが真っ二つになったことも知らないようである。

わざわざ本人が真っ二つになりましたと喧伝することはないだろう。

あれほどの事態も知られていないということであれば、

無月についてもまだ知られていないという可能性の方が高いだろう。

どちらかというと、人間が秘密にしているから知られないというよりは、

魔族にとって別に興味がないという方が大きいようである。


「じゃあ魔族にとって興味がないなら大丈夫そうだな」


ハルダヴェルグは少し安心したようだった。


「他にも懸念があったのか?」


遼香が聞く。


「ああそうだ。

もう一つは鍛治屋の方だ」


「鍛冶屋が狙われるという話か?」


「それだけの武器を作れる奴がいるんだったらそこを狙うだろう。

武器があるなら武器庫を叩くみたいなもんだな。

どうやら個人が作った武器じゃあなさそうだが、

それならそれで、その鍛冶屋が全部狙われても不思議じゃない。

鍛冶屋がいたら武器が量産されてしまうからな」


「まああそこに魔族が攻めてきたとしても、

対抗できるだけの戦力はある。

あそこがダメになるとしたら、よほどのことがあったということになるだろうな」


「ならいいんだ。

まあ念には念を入れておけっていうことだよ」


「そうだな。ご忠告痛みいる」


遼香は真面目に感謝したようだった。


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