第523話 エルフと無月と

「緑箋、ちょっと無月を抜いてくれんか?」


緑箋はハルダヴェルグに言われた通りに無月を抜いて構えた。


「これでいいでしょうか?」


「ああ、ちょっと無月に魔力を込めてくれるか?」


「分かりました」


緑箋が無月に魔力を込めると、

無月は黒く輝き出す。


「なるほどなあ、こういう輝きになるのか。

緑箋は本当に無月に選ばれてるのかもしれんな。

無月の輝きが違う」


ハルダヴェルグはそう言いながら、無月の切先に指を置いた。

ハルダヴェルグの指先から血が滲み出す。


「大丈夫ですか?」


「ああ、これを確かめたかったんだよ」


ハルダヴェルグは指先に力を込めると、

傷は見る間に塞がっていく。

やはりエルフには煌輝石の効果、魔族特効の効果は現れないようである。


「綺麗に傷が消えましたね」


「ああ、エルフもダークエルフも魔族と似たようなもんで、

魔力が高くて再生能力は高い。

ダークエルフはその見た目から魔族に近いと思われることも多かったんだが、

やはり魔族とは違うってことが、

無月で証明してくれたな」


ハルダヴェルグはまた大声で笑う。

確かにダークエルフが魔族に近いような扱われ方をした歴史があったのだろう。

光と影のような名付け方をされていることでも、

そのことはわかる。

だが今確認したように、

煌輝石の効果は現れていないので、

ダークエルフは魔族とは違うということが確認されたのだ。

無月にも意外といろんな使い勝手があったのだなと、

緑箋は感心してしまった。


「やっぱりこの武器はエルフには特別な効果が出ないっていうことですね。

魔族特効は確かめられたんですが、

他にもどういう効果があるかというのはわからなかったんです。

日本の妖怪たちには効果がないこともわかってはいたんですが、

まさかエルフも確かめられるとは思っても見ませんでした」


「あああ、そうかいそうかい。

いろんなところで出会いがあると、

そういういろんなことがわかってくるんだよ。

今は端末で簡単に連絡がとれたりする便利な世の中になったが、

それでも実際に会って話すとわかることもあるってもんだな。

刀で斬りかかられるってのは困りもんだがな」


「僕はハルダヴェルグさんを斬ってませんからね」


緑箋は抗議をするようにいう。


「ははは、ちょっと揶揄っただけだ。許せ許せ」


ハルダヴェルグは上機嫌である。


「でもまあその鉱石の効果に関しては、

やっぱり魔族に特別な効果があるってことなんだろうな。

しかしその効果を発揮させるように武器を鍛錬するってことになると、

これまた一筋縄ではいかなそうだなあ。

砕星と無月はそのバランスが絶妙なんだな。

もしかしたら今度その二つのような武器は作れないかもしれないぞ。

それだけ奇跡的な武器だと思った方がいいかもしれんな」


「ハルダヴェルグですらそう感じるのか?」


「実際に作ったわけじゃないし、

ワシよりも腕のいい職人は大勢いるだろうから、

絶対にできないとは言わないが、

それでもその武器を作った職人は相当な腕だろう。

武器自体が洗練されたものだっていうのはわかるんだが、

それに煌輝石を見事に一体化させてるからなあ。

大事にしないとバチが当たるぜ」


ハルダヴェルグは急に真剣な表情になった。

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