第521話 無月に込められた魔力

ハルダヴェルグは鞘のままもう一度無月を手に取った。

そして目を閉じて無月に集中するように何かを感じ取ろうとしている。


「うーむ、これはもしかしたら、

本当に妖刀なのかもしれんなあ」


ハルダヴェルグはそう呟いた。


「やっぱり敵の血を啜るとかそういうことでしょうか?

僕は使っていてそういう感じは一切してなかったんですが……」


緑箋は不安になって質問した。


「そうだな。

まあそれは実際問題どの武器にもあるんだと思うんだ。

特にワシらは魔法の武器をよく作ってるからわかるんだが、

魔法の通りがいい武器っていうのは多かれ少なかれ、

敵の魔力を吸い取るというか付着して飲み込むというのかな、

そういうことがないわけじゃない。

だから砕星も無月もそういう効果が高いという可能性があるんだが、

多分そういうことじゃあないんだな」


「敵ではない?

もしかしたら、味方からということじゃないでしょうか?」


緑箋は普段から思っていたことを聞いてみた。


「ああ、そういうことか……。

なるほどなあ。緑箋のいうことでちょっと分かった気がしたんだが、

ワシがこの無月を握って思ったのが、

無月の中にすでにいろんな魔力があるような気がしたんだ。

緑箋の魔力が残っているのは当たり前なんだが、

そうじゃない人間以外の魔力っていうのをたくさん感じたんだ、

その中にはエルフの魔力も感じた。

それってもしかしたらカレンは無月を使ったことがあるからじゃないか?」


「その通りです。

この前私の中の魔力を確認するために、

無月を使わせていただいて、無月に魔力を込めたんです」


「やっぱりそうか。

じゃあやっぱり無月は今までに込められた魔力を蓄えている、

言い方が合ってるかわからんが、

吸い込んだ魔力の記憶を持っているって感じなのかもしれないな」


「今までに使ってもらった人の魔力を覚えているということですか?」


「だからどうなるっていうのはわからんし、

それで無月が強くなってるというのかもわからんが、

無月や砕星にはそういう性質があるっていう気がするな。

だから今日みたいにいろんな人に魔力を込めてもらうってのは、

いいことなんじゃないかって思うんだ」


「無月に意思があるかもしれないということでしょうか?」


「まあそこまではどうかな。

でも武器や防具の中には喋るやつっていうのもあるらしいからな、

もしかしたら無月がいつか喋ることがあるかもしれない。

長いこといろんな装備を作っても、

ワシはまだ出会ったことがない。

だからもし無月が喋るようになったら絶対教えてくれよ!」


ハルダヴェルグはそう言って笑った。


「そうですか、もっともっと大事に扱わないといけませんね。

もし喋れるようになったら怒られてしまいますから」


緑箋も笑った。


「ってことは砕星もみんなに魔力を込めてもらったら、

夢月みたいになるかもしれないってことか?」


「さっきも言ったが、それでどうなるかってのはわからん。

別に砕星自体はもうかなり強い武器だからな。

でも浪漫があるだろう。

みんなの魔力がこもった武器っていうのは。

それを許容できる武器っていうのは間違いないな」


「確かにそれはそうだな。

今日から砕星をみんなに一度渡すようにするよ」


遼香もなぜか嬉しそうにしている。

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