第520話 無月の感触

「まあとりあえず、隠された謎については後に聞くとして、

こっちの無月も見せてもらうよ」


まず武器の確認をするために、

ハルダヴェルグは無月を手にとって鞘から抜く。


「なるほどなあ……。

こりゃあほんとにすげえなあ。

誰なんだよ、これ作った奴は。

あとで紹介してくれよな。

うちに技術指導に来てもらいたいわ」


「わかりました。

向こうと連絡してみます」


朱莉はそう言ってすぐに連絡を取ったようだった。


「すまねえなあ。

いやあそれにしてもため息しか出ないな。

日本刀の美しさというのは分かってるんだが、

これはまた一層美しい」


ハルダヴェルグは弟子に壁に飾ってある日本刀を持って来させた。


「これは日本刀を模してこっちで作ったものだ。

材料も取り寄せて、

やり方も教わって、

同じような工程で作ってみたんだが、

やっぱり輝きが違うよ。

水の問題もあるのかもしれないが、

物には物ができる理由っていうのがあるんだ。

この無月も多分そうなんだろうなあ。

気候、風土、湿度、温度、材料、職人。

そう言ったいろんなものが合わさって一つのものができるんだ。

これはワシらには作れないものなのかもしれん。

似たようなものはできるかもしれないが、

ここまでのものは難しいだろう」


ハルダヴェルグは大きく息を吐くと、

真剣に刀を握って魔力を込める。

無月が黒く輝く。


「砕星と同じようにやっぱり恐ろしい武器だなこれは。

魔力の底が見えない。

どこまでも魔力を貸してくれそうな魅力があるが、

それに飲み込まれたらこっちの魔力がなくなってしまいそうだな。

まあ、個人的にはこの鬼の目が光るのは嫌いじゃない。

たまに、こういう小さな仕掛けをしたくなるもんなんだよなあ」


ハルダヴェルグはそう言って笑いながら、

無月を鞘にしまった。


「砕星と無月はどっちもすごい武器だが、

一つだけ違いがある気がしたんだ。

遼香はもしかしたら砕星をそんなに使ってはいないんじゃないか?」


「あー、確かにそれはそうだな。

訓練では使ってるんだが?

要するに実践が足りないっていうことだろう?」


「うーん、まあそれもあるんだが、

砕星と無月を比べてみたときに、

明らかに無月に老練さを感じたんだよ。

若い武器っているのは見た目だけじゃなくて、

握った感触、使った感触でわかるもんなんだ。

相手の血を啜っただけの魔力があるのかどうかはワシにもわからんのだが、

そういう感じがする武器がある。

まあだから魔剣とか妖刀とかいう名前がでてくるのかもしれないんだが。

無月にもそれに近い感覚があるんだが、

実戦で使われているから、敵を斬ったから、

という感じとはまたちょっと違うんだよな。

どちらかというとそういう敵の念が入っているというよりは、

何かを取り込んで成長している、

無月が大人になっていっているというような気がするんだよな」


ハルダヴェルグはそう言って首を捻った。

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