第518話 ダークエルフの鍛冶屋

ナルエルとハルボードはそれほど背格好も変わらない。

ただ肌の色が違うだけだった。

ハルボードの茶褐色の肌は元々の色もそうなのだろうが、

火や煤を浴び続けているからなのではないかという、

貫禄すら感じさせる色だった。


村の中から少し外れたところへ進んでいくと、

大きな建物が遠くからもわかった。

石造りの重厚な門扉ががっちりと閉じられていた。

その扉には、無数に打ち込まれた釘が、

まるで入るものを拒むように鋭く突き出ている。


「この釘は弟子がここから出ていくときに打ち込んでいくんだ。

一人前の証だな。

もうこの扉は潜らない、必要ないっていう意思を込めて打ち込むんだ。

いつからだか知らないが、それが伝統になってるのさ」


無数の釘の数だけ弟子がいるということになる。

おそらく錆びて朽ちている釘もあるのだろう。

釘だけではなく、穴も無数に空いている。


その扉の鉄製の取っ手は、

幾度となく握られているからか銀色に輝いている。

扉の両脇には、巨大な鉄の槌が壁に飾られている。

その槌が斜めに重なった絵が扉に描かれている。

鍛冶屋のシンボルなのだろう。


「じゃあ中に入ってくれ」


ハルボードは、そう告げると扉を叩いた。

ゴーン、という鈍い音が地下空間に響き渡る。

合図をした後、ハルボードが扉を開けると、

現れたのは、予想をはるかに超える壮観な光景だった。


鍛冶屋の内部は、

まるで地下に築かれた要塞のようだった。

天井からは、無数の鉄の鎖が吊り下げられ、

その先に無数の工具がぶら下がっている。


奥の部屋の中央には、巨大な鉄の炉が置かれており、

その上には、真っ赤に熱せられた鉄塊が置かれていた。

炉の周りには、様々な形の金槌ややすりが散らばっており、

ダークエルフたちが声を掛け合って作業を続けている。

あちこちで鉄を叩く音や鉄を溶かす音が響き渡り、

まるで戦場のような雰囲気を醸し出していた。


熱気のこもる作業部屋を避け、

別室に入ると、そこは立派な応接室のような部屋だった。

今まで作られたであろう、武器や防具が壁一面に飾られている。

中には一枚板の大きなテーブルがある。


「申し訳ないがここで少しお待ちください。

親方を呼んできますから」


シルヴィア、遼香、緑箋、代田、朱莉、ナルエルは、

しばし待つことになったが、

誰も椅子に座らずに、

壁にある武器や防具をみてはオーと言って驚き感心し、

お互いに見せ合って何故か誇らしげに語り合っていた。


そんなことをしているうちに、応接室の扉が開いた。


「お待たせして悪いな。

ようこそ、わが鍛冶屋へ」


かなり高身長のダークエルフの男がやってきた。

銀髪に銀の長い髭が特徴的で、切長の目に赤い瞳が輝いている。

上半身には作業用のジャケットのようなものを羽織っただけで、中は裸である。

そして今まで見たエルフとは違って筋骨隆々のがっしりとした体つきだった。

どこかで見たことがあると思ったら、

鬼に似ているのだと緑箋は思った。


「マイトリンから話は聞いている。

じゃあまあ座ってくれ」


一同は座って挨拶を交わす。


「すまんねありがとう。

じゃあ最後にワシの紹介だな。

ここのダークエルフの村でここの鍛冶屋責任者をやってる」


ハルダヴェルグだと名乗った。

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