第514話 マイトリンの魔法

マイトリンの杖の先に嵌められた緑色の宝石が輝き始める。

カレンはマイトリンの額の前に杖を翳す。

すると緑いの宝石は輝きを増し、

緑色の光がカレンの体を包み込んでいく。

カレンの頭の先から足の先まで光に包まれていく。

カレンは目を閉じたまま全く動かずにその光を受け止めている。

光がカレンの体の全てを包み込むと、

マイトリンはゆっくりと杖を下す。


「カレンさんいかがでしたか?」


「なんだかわかりませんが、

光に体が包まれて暖かさを感じました。

私の中にとても優しい何かが入ってきて広がった感じがしました」


「それがエルフの魔力です。

あなたの中にエルフの魔力が強く感じられたと思います。

右手を出してください」


カレンは右手をマイトリンの前にそっと出した。


「右手に今感じた体の中の魔力を集めるようなイメージしてください。

右手にだんだんと魔力が集まってきます。

今までとは違う暖かい魔力です。

その魔力が右手に集まっています。

右手が暖かい魔力で包まれてきます」


マイトリンの言葉でカレンの右手が緑色に発光する。

マイトリンはカレンの右腕をそっと掴み、

横に揺らす。


「いいですか、カレンさん。

右手を揺らしながら、魔力を感じてください。

あなたの右腕が光そのものになったように感じてください。

揺れている右手が光に包まれて、

光の線を描いていきます」


カレンは目を閉じたまま、マイトリンに身を任せている。

カレンの右手は輝きを増している。

揺れる右手の軌跡が光で描かれている。


「ではそのまま今度は上下に手のひらを揺らします。

あなたの右手から光の波が前に出ているようなイメージです。

周囲の魔力をあなたの右手で押すようにして、

光があなたの前に波打って出ていきます。

そうです。

周りの魔力をあなたの右手で優しく押し出してください。

あなたの右手はもう周りの魔力と一体になっています。

光の魔力の波を感じられているはずです。

波はどこまでも遠くへ届いていきます。

あなたは光になって、遠くまで感じられているはずです」


マイトリンの言葉の通り、

カレンの右手から光の波が出ている。

波が部屋中に広がり壁を抜けて、

どこまでも遠くまで伝わり続けているように見える。

優しい波は緑箋たちにも伝わり、とても心地が良い。

龗はその波に揺られるようにしながら頭を揺らしている。


「カレンさん、とても素晴らしいです。

ではゆっくりと手の動きを止めていきましょう。

光の波がゆっくりとおさまってきました。

遠くまで感じられていた魔力がどんどんおさまって、

あなたの右腕に戻ってきます。

右手の動きをゆっくり止めます。

はい、右手には暖かさが残っていますね。

ではゆっくり目を開けましょう。

右手の眩しさに目が眩まないように。

ゆっくり、ゆっくり目を開けていきます」


カレンは静かに深呼吸しながら目を開けた。

眩しそうに自分の右手を見た後、

部屋の周りをキョロキョロと見渡した。


「今、私部屋の外まで感じたんです。

私が私でなくなったような、

部屋全体、もっと外、このエルフの島の中の全てを感じられたような、

そんな気持ちになりました」


「それはよかった。

あなたの中のエルフの魔力がしっかりと残っていることがこれで証明されました。

やはりあなたはフロールーンの娘です」


マイトリンは優しく微笑んだ。

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