第508話 マイトリンとカレン

「今回はこのような拝謁の機会をいただきまして、

本当にありがとうございます。

今回お話をさせていただきました通り連れて参りました。

こちらがカレンです」


遼香は丁寧に挨拶をして、カレンを紹介した。

いつものことながら

普段とは全く違う遼香の様子に驚いてしまう。

緑箋も長く遼香と時間を共にしてきているので、

少しだけ慣れている面があるが、

遼香の魔力の力は知っているので、

改めてこのように凛とした姿を見せつけられると、

本当にすごい人の下にいるのだなということを確認させられる。

ただ普段の明るい遼香ももちろん大好きなので、

なかなか難しいところではある。


「カレンさん。こちらへ」


マイトリンは自分の近くへ来るようへ促した。

カレンはゆっくりとマイトリンの前に進み、

片膝をついて恭順の姿を見せる。


「マイトリン様。

お会いできて光栄に存じます。

私のためにこのような貴重な時間をいただけたこと、

本当に感謝しております」


「カレンさん、頭をあげてください。

あなたの顔をよく見せてください」


頭を下げたままのカレンに対して、

マイトリンは優しく話しかける。

カレンはゆっくりと顔を上げる。

恐縮しているというよりも、

マイトリンの温かすぎる魔力にカレンは顔を見ることができないのだ。

それでもマイトリンの言葉によってゆっくりと顔をあげ、

なんとか目を合わせる。


「ふふふ。よく似ていますね。

あなたの母、フロールーンにそっくりです」


「えええ!?

私の母をご存知なんですか?」


「ええ、よく知っています。

あなたのお母さんのお母さん、

あなたのおばあさんのエオメールとは親友ですから。

フロールーンのことは子供の頃から知っておりますよ」


「祖母とは親友だったんですか……。

母のこともご存知とは……」


「はい、そうなんです。

あなたのことも知っておりましたよ。

もちろん詳しい話までは知りませんでしたが、

風の噂が伝わってくるのはエルフにとって当たり前のことなのです。

フロールーンに子供ができたということは知っておりました」


「そうだったんですか……。

皆さまが私のことをご存知だったなんて知りませんでした」


「まあエルフのネットワークというのも狭いものですから……。

人間界に来ているエルフも変わり者が多いけれど、

繋がりは深いから、

色々な話は耳に入ってくるのです。

ですからあのフロールーンに子供がという話も聞いてはいたのですが、

出自が出自ですから、

私があなたと会うことはないのかと少しだけ残念に思っておりました」


「そのように思っていただけたと知れただけでも、

本日来た甲斐があるというものです」


「ですから、それほど緊張しなくてもいいのですよ。

我々は家族なのですから。

あなたの複雑な出自というのは確かに気にするものも多いと思います。

ただそれはあなた自身との問題とはまた別のこと。

あなたが望むのであれば、

我々はそれを歓迎します」


マイトリンはそういって優しく微笑んだ。

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