第507話 エルフの村

カフェを出ると、シルヴィアの横に二人の背の高い男性が寄り添った。

側から見たら友人や恋人のような二人であるが、

おそらくは何かあったときに対処できるように見張っていたのだろう。

シルヴィアの先導で移動して、

イギリスの郊外の森の中へ入って行った。


「一応この辺りにエルフの住処があるんだけど、

封印されているから普通の方法では入れないの。

子供はたまに封印に認識されずに入れてしまうこともあるんだけどね」


悪意のない子供は動物たちと同じように、

封印の中に入ってしまうこともある。

いつの間にか姿が見えなくなった子供の神隠しのような理由は、

こんなところにもある。

今回はただの森の中を通ると、

霧が濃くなっていく。

遠くの視界がなくなっていくが、

その霧の中に一人の影が立っているのがわかる。

金髪のエルフの男性である。

白いスーツを身に纏っている。


「お待ちしておりました」


エルフはそのまま前に進んでいくと、

エルフの前の霧だけは晴れていく。

緑箋たちはそのエルフに逸れないようについていく。

自分の前の人間しか見えないような白い霧の中、

そのまま前に進んでいくと、

徐々に周りの霧が晴れてくる。

そして綺麗な泉の中に島が浮かんでいる。


「こちらでございます」


エルフは泉の中の蓮の葉をそのまま踏んで歩いて島へ向かう。

一行は飛びながら進むが、

緑箋は代田にに肩を抱えられるようにして、

慎重に蓮の葉の上を進んでいく。


緑箋はいまだに空を飛ぶことができない。

跳躍はできても飛行ができないのが不思議ではあるが、

緑箋の頭の中で空を飛ぶということが否定されているのだろう。


建物は木や石で作られていて、

壁の周りは草や花や苔で覆われている。

自然と調和したような建物になっている。

お店もたくさんあり、

果物や野菜を売る八百屋、衣料品店、薬屋、

そして工房や鍛冶屋などもあるようだ。


人間たちがくるのは珍しいようだが、

あまりエルフたちも気にせずにジロジロ見られることもない。

奥には一際大きな建物があり、

明らかに村の中の重要な建物とわかる。


その建物の中に導かれていく。

高い天井を持つ大広間の奥に一人のエルフが腰かけていた。

彼の背後には、大きな窓から差し込む光が、

彼の金色の髪を美しく輝かせていた。

そして彼の肌も月明かりを浴びた雪のように白く輝かせて、

その顔の中の深紅の瞳は、まるで深い炎のように輝いていた。

その瞳には、何千年もの時を生きてきた知恵と、深い慈悲を感じさせた。

身に纏ったローブは、森の緑を思わせる深い緑色で、

自然とキラキラと輝きを放っていた。


「シルヴィア久しぶりですね。

変わりなく元気な様子を見せてくれて嬉しいです」


明らかにオーラの違うエルフの涼やかな声が心地よく耳に広がっていく。


「こちらこそ、またお会いできて光栄です」


シルヴィアが頭を下げて返答する。


「皆様もようこそお越しくださいました。

私はこの村の長を務めております」


マイトリンと申します。そうエルフは名乗った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る