第504話 日本語と魔法と

それにしてもシルヴィアは日本語が上手である。

これまでのシルヴィアのセリフは全てシルヴィアが語ったセリフである。

魔法を使った翻訳をしているわけでもないのに、

シルヴィアはまるで自分の言語のように流暢に話している。

あまりにも自然すぎて緑箋は気にしていなかったが、

考えてみるカレンたちも普通に日本語を話していた。

緑箋は気になって質問した。


「シルヴィアさんもカレンさんもものすごく日本語が上手ですが、

どこかで習ったりしたんですか?」


シルヴィアもカレンも不思議そうな顔をしている。


「そっか、緑箋君は知らなかったんだね」


朱莉が場を取りなしてくれた。


「日本語は世界共通語の一つなんだよ」


「ええ!そうなんですか!?」


あまりに当たり前のことなのだろう、

緑箋はそのことを全く考えたこともなかったり、

誰も教えてくれなかったのだ。

中学に途中から入ったというのも大きかったのかもしれない。


シルヴィアは窓の外を見ながら、静かに話してくれた。


「日本の魔法と日本語には、非常に深い結びつきがあるの。

それは、言語そのものが持つ力、

そして日本人の思考回路に根ざしていると考えられているわ。

『話す』という言葉があるけれど、

これは自分の思いを相手に伝えること、

つまり『放つ』からきている言葉なの。

言葉の力によって相手の心を動かし、

さらには現実を変化させる。

それが日本の魔法と密接に絡んでいる。

日本の魔法の能力が高いのは、

この日本語の素晴らしさからきていると思うわ」


日本語と魔法のつながりが世界で受け入れられているということなのだろう。


「また日本語には、敬語や謙譲語など、

相手への配慮を表現するための言葉もたくさんあるわね。

自然への敬意、他者との共存を重んじる日本人の精神を表していて、

この精神は、日本の魔法においても非常に重要なの。

自然の力を借りながらも、決してそれを支配しようとはせず、

共存共栄を目指すという考え方に繋がっているわけ」


「そういうことを考えたことがありませんでしたが、

確かに僕も魔力を借りているだけという気がすることがあります。

龗にもたくさん借りていたりしますし」


緑箋は当然のように肩で寝ている龗の頭を撫でた。


「その精神は世界ではなかなか珍しいの。

それに日本の魔法は、他の国の魔法を積極的に取り入れる柔軟性も持っているわね。

例えば、陰陽道は中国から伝わった思想だけど、

日本独自の解釈を加え、独自の魔法体系を築き上げている。

今も積極的に西洋の魔法を取り入れて、

さらに日本の魔法として高めていっている。

日本の魔法は、外からの影響を受けながらも、

常に日本の文化や風土に根ざした独自のものを生み出してきたの。

この日本の魔法と日本語の密接なつながりは、

世界でもずっと注目されているの。

だから今の魔法界で日本を学ぶというのはとっても重要なんだ」


緑箋は前の世界でも日本語で世界を席巻したらよかったのになあと、

少しだけ思った。

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