第501話 カレンとアルフヘイムの話

ええーという大きな声が静かなカフェに響き渡った。


緑箋と代田とカレンは、

今目の前でシルヴィア・ミストヴェールと名乗った女性が、

遼香と親しげな様子からただものではないと思ってはいたが、

まさかイギリス魔法軍の総元帥だとは思わなかった。

朱莉は流石に知っていたらしく、

緑箋たちの驚いている様を、遼香と一緒に楽しんでいるようだった。


シルヴィアは銀色がかった長い髪を撫でながら、

驚かれたことを全く気にせずに笑っている。

シルヴィアの服装は一見すると普通の魔法使いのそれと変わらない。

柔らかな薄紫色のローブは、彼女の細身の体つきに沿っていた。

袖口と裾には、繊細な銀糸で霧のような刺繍されているがが、

確かに美しくしっかりした作りだが珍しいものではない。


シルヴィアの表情は古典的な美しさと現代的な魅力を併せ持っている。

高く通った鼻筋、優雅に弧を描く眉、そして柔らかな曲線を描く口元が、

彼女の顔の完璧なバランスを作り出している。

しかし、彼女の最も印象的な特徴は、間違いなくその目だった。

深い緑色の瞳は、まるで霧に覆われた森のように神秘的で、

見る者を魅了せずにはいられない。

その瞳は知性と慈愛に満ちているが、

同時に、英知と隠し切れない強さが宿っていた。


「それであなたがカレンさんですね」


シルヴィアがカレンに尋ねる。

流石にカレンもシルヴィアの階級に戸惑っていて、

うまく話せないようだったが、

なんとかそうですと声を絞り出して答えた。

今回カレンの同行は許されているようだが、

カレンが魔族ということは極秘扱いである。

一部のものにしか情報は公開されていない。

それもそのはずである。

魔族、人間にとっての敵がいるわけだから、

そう易々と動けない。

しかし今回は遼香が自分が責任を取る形で同行を許されているようである。

シルヴィアもそれを知っていて今回ここに付き合っている。

あくまでも私人として今回の話をしていることは、

シルヴィアが最大限遼香に配慮してくれている証である。

またもしカレンが何かしたとしても、

それに対して対処できるという自信の表れでもあるのかもしれない。


「我々はあなたのことを詳しくは知りませんでしたが、

やはり風の噂程度の話は伝わっています。

今回アルフヘイムの方に話を伝えたところ、

アルフヘイムにはあなたの話は伝わっていたようです」


「そ、そうだったんですか。

私のことをご存知だったんでしょうか」


今日のカレンは驚きっぱなしである。


「エルフたち独自のネットワークというものがあるようですね。

そしてあなたのお母さんのことも心配されているようで、

そこからカレンさんの話も出てきていたようです。

ただ残念なことにアルフヘイムでも、

カレンさんのお母さんの今の状況は把握されていないようです」


「そうですか……。

それでもエルフの方々に心配されていたというお話だけでも、

とてもありがたいことです」


カレンは目を伏せながらも感謝を伝えた。

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