第496話 母の愛

「わかりました!」


緑箋の声掛けに、カレンは息を落ち着かせながらも、

急いで無月をもう一度握る。

そして魔力が空っぽになったはずの体で、

無月に魔力を送り込むようにする。

周りのみんなは息を飲んでその様子を見守る。


無月が黒く輝き始める。

そして酒呑童子の目もしっかりと輝き始めた。


「これは……。

本当に私の中に別の魔力が……」


カレンは無月の輝きに目を奪われながらも、

自分が魔力を注ぎ込めていることに喜びを感じていた。

やはり緑箋たちの見立て通り、

カレンの中には魔族の魔力以外の魔力が隠されていたのだ。


「もう大丈夫です。無月を離してください

そのままでは本当に全部の魔力がなくなってしまいますから」


全ての魔力を失って体がなくなるところまで、

魔力が完全になくなるということはないと思うが、

それでも大量の魔力を消費した状態は危険であることに間違いはない。

このままで発見された魔力も全て使い果たしてしまうことになりかねない。

緑箋はカレンから無月を受け取った。


「これは母の魔力に確かに似ています。

お母さん……」


カレンは自分の体を抱きしめるようにして、

自分の中の魔力を確認している。

今は会えない母親のことを思い出して、

懐かしくなってしまったのだろう。

ゾードとザゴーロが横に立ち、

カレンを支えている。

この魔族の三人がどのような関係で、

どういう歴史を重ねてきているのかまではわからないが、

熱い信頼関係で結ばれているというのはわかる。

間者じゃなければいいなという思いはより強くなった。


「どうでしょうカレンさん。

自分の中の魔力を確認できて、

この魔力が身体中を駆け巡る感覚を覚えておいてください。

それが分かればきっといつでも使えるようになるんじゃないかと思います。

というかそのうちに混ざってカレンさんの魔力になるんじゃないかと思います」


「私の魔力ですか?」


「まあそうです。

誰しも自分の魔力を持っているはずです。

ひとえに魔力と言ってもそれぞれに違う形になっています。

魔力を吸い取ったり吸い取られたりすることももちろんありますが、

それはその魔力を媒介にして自分の魔力として使っているんでしょう。

今回はおそらくお母さんの手によって封印されたような箱が、

開いたという感じですかね。

サタンの横で感じさせてはいけないと思ったんでしょう」


「きっとそうだと思います。

母が残してくれていたんですね。

こんな大事なものを今まで気がつかなかったなんて……」


「逆ですよ。

大事だからこそ隠したんです。

いつかカレンさんの中から出現できるように、

安全なところまで隠してくれたんでしょう」


「ありがとうございます」


カレンは声を押し殺して泣いた。

ゾードとザゴーロはカレンの肩を優しく抱いていた。

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