第495話 カレンの矛と緑箋の盾

いやいやいやいや、緑箋は心の中で突っ込んだが、

もう止める術もない。

別に受け止めずに避けてもいいのだが、

それでは面白くもない。

もし本当にこの攻撃をされることがあるかもしれない。

今この衝撃に耐えることはとても有益なことである。

緑箋はそう自分に言い聞かせた。

しかしそう思っているのは緑箋だけではなかった。


「カレン様、その魔法は……。

本当に……」


「緑箋様、できれば避けた方がいいのでは……。

あれは破滅の魔法です」


ゾードとザゴーロがそういうのならばそうなのだろう。

しかしもうカレンの手には漆黒の球体が全てを飲み込もうとしている。

あとは緑箋がしっかり受け止めるしかない。

もし、緑箋の後ろに誰かがいるのだとしたら、

逃げるわけにはいかない。

そんな緑箋の気持ちを感じたのか、

カレンはゆっくり詠唱を始める。


「闇淵より、力を吸い寄せ、我が球に凝縮せよ!

黒き玉よ、破壊の力を宿せ!」


魔力がさらに闇の球に凝縮していく。

カレンが静かに目を閉じる。


「テホム・ハ・アフェラ(闇の深淵)」


カレンの美しい声が闇の球に吸い込まれていく。

それと同時にカレンの手から闇の球が放たれた。


すでに緑箋の前には数千層にも重なった防御結界が貼られている。

しかし闇の球はその結界を吸収するように緑箋目掛けて進んでくる。

物理的にも魔力的にも攻撃を遮断する緑箋の防御結界は、

闇の球に吸収され侵食されることでその意味を失うこととなった。


「まさか、あの防御があんなに簡単に?」


代田は何度も緑箋との訓練をしてきて、

あの防御結界を壊す術を見出せなかった。

それほど強力なあの防御結界が、

まるで飴のように壊れている様が信じられなかった。


しかし緑箋はそれを見ても動じていない。

さらに防御結界を貼って闇の球を包み込むようにしていく。

ただその勢いは止まることがなく、

闇の球は防御結界をどんどんと飲み込んでいく。


「緑箋さん、危ない、避けてください!」


カレンが大きな声で叫ぶ。

緑箋の防御結界は防御の役目を果たさずに、

ただ飲み込まれていくばかりである。

しかし緑箋はそれをものともせず、

さらに防御結界を張り続けていく。

というよりも防御結界を周りにもはって、

闇の球の表面全てから防御結界を飲み込ませるかのようにしていた。


その防御結界の貼られる速度が加速度的に速くなっていき、

いつしか闇の球の侵食速度が遅くなっていく。

そして闇の球は次第に小さくなり始めていた。

緑箋はそのまま防御結界を貼る速度を止めることなく、

闇の球は緑箋の前まで到達することなく小さくなって消えた。


どっと周りのみんなから歓声が沸く。

カレンも何故か喜んでいる。

魔族たちはすごいこれはすごいと感心しながら手を叩いて喜んでいた。


しかし今回はカレンの巨大な魔法を防ぐのが目的ではない。

カレンに魔力を使い切ってもらうことが目的である。

緑箋は冷静にカレンに叫ぶ。


「今です。もう一度無月に魔力を注ぎ込んでください!」

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