第494話 緑箋の算段

緑箋は続ける。


「全力で魔力を僕にぶつけてください。

どんな魔法でも構いませんので、

とにかく全力で全ての魔力を出し切る形をとって欲しいんです」


「自分の魔力を使い切った先に、

もし隠されている魔力があるなら、

それが出てくるかもしれないということですね」


カレンは緑箋の意図を的確に理解した、

ように思えたが、

実は理解していなかった。


「緑箋さんが攻撃を受ける必要ってあるんですか?」


緑箋の意図に気が付いたのこれまで生活を共にしてきた代田だった。


「目標があった方が魔力をしっかり消費しやすいからですよ」


「それは別に仮想敵を出現させたら良いのでは?」


代田は核心をついた問いを緑箋に投げかける。


「確かにその通りなんですが、

折角の本気の攻撃を受けないのはもったいないと思いまして。

僕の訓練としてももってこいですからね」


代田は絶句した。

いつも呆れたように遼香のことを戦闘狂と話している緑箋だったが、

いつの間にか緑箋もその域に足を踏み入れているのだ。

緑箋はそのことにまだ気がついていないようだったが、

明らかにおかしい試みをしようとしているのは確かだ。

ただ自分が納得できるまで繰り返し行うというのはなかなかできることではない。

緑箋の才能は何かといわれれば、

実は単純作業でも自分の目的のために、

時間を忘れてやり続けられるというところではなのかもなあと、

代田は感心して見ていた。


「あの、本当によろしいんでしょうか?

代田さんがおっしゃるように、

仮想敵でもいいのかと思うのですが?」


「もちろんです。ドーンと打ち込んでください。

こんなすごい攻撃は訓練でもなかなか受けられないですからね。

実戦はどんな訓練にも勝るものです。

それにやっぱり魔力を出し尽くしてもらわないといけませんから、

遠慮は入りません。

怪我をしても訓練室ならば簡単に治せますから、

安心してお願いします」


緑箋のいうことも一理あって、

魔族の魔法能力はかなり高いため、

魔力の回復量も高い。

なので無尽蔵だと思われるような魔法を使用し続けられてしまう。

訓練室ではその辺りの設定を変えることもできるのだが、

通常状態での魔力の底へ辿り着いた上で、

その先を見せられなければ、

次の再現性に繋がらない可能性もある。

ということで緑箋はしっかり魔法を受けるということにしたのだ。

攻撃を受けることの重要性とその楽しさを、

守熊田からの教えてもらっているから、

今はどんどん攻撃を受けたいという、

緑箋の欲求があるということはいうまでもない。


前回とは違い、今回は緑箋は完全に受けである。

またカレンは別に不意をつく必要はないし、

魔力を溜める時間も気にしなくて良いので、

徹底した攻撃魔法を続けられるという、

実はカレンにとっても今までにない、

自分の魔力を存分に使って攻撃できるという機会でもあった。


カレンは右手に全ての魔力を溜めるような仕草をして、

実際にその魔力を球に込め始めた。

訓練室の魔力が薄くなるような、

カレンの魔力球の中に室内の魔力が勝手に吸い込まれるような流れを感じた。

今まで感じたことのない質量を感じさせる魔力球が今も成長している。


緑箋の背中には一筋に汗が伝っていった。

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