第492話 ゾードの腕と無月

血がじわじわと膨らんで流れそうになるので、

ザゴーロは自分の指を舐めた。

それでも血は滲んでくるので回復魔法を使った。

しかし効果は見られなかった。


「これは本当に……魔法が効いてなくなってるんですね……」


ザゴーロは指を舐めながら驚いている。


「全く回復魔法が効かないわけではありませんので、

すぐに血は止まると思います。

では次にゾードさん、ご協力お願いできますか」


「腕の一本でも飛ばしてやってください」


ゾードが返事をする前にザゴーロが茶々を入れてくる。

魔族と言ってもやっぱり仲はいいようである。


「カレン様のためならそれくらい別に構わないが」


ゾードはニコリともせずに恐ろしいことを言う。


「いやいや、もうそんな危険なことはしません。

今度は僕もまだやったことがないのでわからないのですが、

この無月を持ってみてもらえますか?」


緑箋はゾードに無月を渡す。

魔族に武器を渡すなどということは、

本来考えられないことではあるが、

緑箋は普通にゾードに無月を渡した。

ゾードは呆気に取られながらも、

自然に刀を受け取ってしまった。

緑箋は本当に自分たちのことを信用しているのだなと、

カレンたちは心の底で思っていた。


「では刀を構えてみてください。

そのまま刀の先に魔力を送り込むように念じてみてください。

魔法剣の要領ですね」


ゾードは無月に魔力を込めるように強く握った。


無月は輝くこともなかったが、

酒呑童子の目は鈍く薄ぼんやりと輝いたようにも見えた。


「しっかり魔力を込めたつもりでしたが、

何も変わりませんね」


「やはりそうでしたね」


緑箋は無月を受け取る。


「これはどういうことでしょうか?」


「詳しい原理は僕にもわからないんですが、

無月は含有されているある鉱石の力によって、

魔族特攻の効果が現れると考えています。

先ほども言いましたように、

魔力を無月に与えることによって、攻撃力が増して、

さらに魔族特攻の効果が現れるようです。

ですので魔族の魔力を込めた今の状況では、

その効果が現れないのではないかと考えられます」


「魔族には扱えないということでしょうか」


「今の結果からはそうなりますね。

ただ魔族が純粋に魔族の魔力だけで生きているのかと言われれば、

おそらくそうではないでしょうから、

今酒呑童子さんの目が少しだけ輝いたように見えたのは、

ゾードさんの中の普通の魔力に対応したということなんだと思います」


「そうだったんですね。

本当に不思議な刀ですね……」


ゾードは不思議そうに無月と自分の手を比べてみている。


「もちろん武器としては使えますから、

敵に奪われてしまうと普通の刀としての効果はありますので、

それなりに強力な武器になってしまいますが、

本来の力を魔族が使えることはないということが、

今証明されたということになるでしょう」


「確かに切れ味だけでも相当すごそうですが、

これで魔族特攻ということになると、

我々魔族にとっては驚異的な武器になりますね。

ゾード。

やっぱり腕一本切ってもらったほうがいいんじゃないか?

これ勲章になるだろう?」


ザゴーロはやっぱりひどい提案をするが、

ゾードは軽く無視をしている。

ザゴーロは仕方なく指を見ると、

流石にもう傷は治っていた。



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