第491話 無月と魔族と

「みなさんがおっしゃる通りなんですよね。

じゃあ自分の中に隠された魔力があるから、

それを自分で自覚して使ってみましょう。

なんていうのは簡単ですが、

おそらくそれはとても難しいことなんです。

だって今まで無意識に使ってこなかったものを、

意識しただけで使えるようになるというのは難しいでしょう。

しかも本当にあるのかないのかわからないわけですから、

余計に信じるのは難しいでしょう。

ただ、カレンさんのお母様の血筋が本当なら、

カレンさんの中にエルフと人間の魔力が存在していることも、

それは間違った話でもないということはお分かりになられると思います」


「確かに母は魔族ではありませんでしたから、

人間とエルフの混血ではなかったとしても、

魔族以外の何かがあるということは確かかもしれません。

ただそれを確かめるというわけにもいきませんし……」


カレンの母が今どこにいるのかもわからないので、

詳しい話を聞くことはできないのだ。


「カレンさんのおっしゃる通りで、

それを確かめるのは本当に難しいことだと思います」


「そうでしょうね……」


「でも多分できちゃうんですよね……」


「やっぱり緑箋さんでも難しいですよね。

えええ!

できると今おっしゃいましたか?」


まるで漫画のようなノリツッコミをカレンが見せたことに、

カレン以外の全員が驚いた。

今日一番の驚きである。

もしかしたら、カレンが今まで生まれてきてから一番驚いた場面かもしれない。


「まあそうなんですよね。

だからこれも運命なのかなと思ったりもするんですが。

本当にできるかわからないので、

少しずつ説明させていただきます」


「お願いします」


これにはカレン以外も興味津々である。

緑箋は無月を抜いた。


「これは妖刀無月といいます。

詳しい話は僕にもわからないのですが、

簡単にいうと魔族特攻の刀になります」


「魔族特攻ですか……」


緑箋は刀を握って魔力を込めた。

すると刀身が美しく黒く輝く。

もちろん鍔の酒呑童子の目もしっかり輝いている。


「このように無月を人が持つと、

魔力を媒介に攻撃力が激しく増えます。

魔力を使用した刀ということですね。

そしてこの状態だと……。

すみません、ザゴーロさん指をお借りしてもいいでしょうか?」


「はい大丈夫ですが」


「少しちくっと挿してもよろしいでしょうか?」


「全然大丈夫ですよ」


魔族は多少斬られてもすぐに回復するので、

ザゴーロは全く気にしていない様子だった。

緑箋はザゴーロの右手の人差し指の腹に、

無月をほんの少しだけ刺した。

赤い血がぷくっと丸く浮かび上がる。

魔族にも同じ血が流れていることは、

レヴィアタンの時にも感じている。

魔族の強靭な回復力ならば、

これほどの怪我は怪我にも当たらずに、

すぐに回復するはずである。

しかし血は球になった後、

指先から滴り落ちていく。


「あれ、おかしいですね。

これくらいの傷なら、すぐに消えるはずなのですが」


ザゴーロだけではなくカレンもゾードも驚いている。

こんなことは今までになかったのであろう。

ザゴーロは緑箋の方に顔をあげる、

とても不思議な顔をしていた。

今日の魔族は驚きっぱなしである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る