第490話 カレンに隠された魔力

緑箋は静かに自分の考えを話し出した。


「おそらくですが、カレンさんの中には魔族の魔力以外の魔力が隠されています」


「確かに私の体にはエルフと人間の血も流れていますが、

その魔力があると言うことでしょうか」


「その通りです。

魔界という魔族のもつ魔力の濃い場所で生活していたこと、

魔属性の魔力が当たり前だったこと、

そして自分の魔力を隠すように教わってきたこと、

それらの複合的な要素によって、

自分の中の魔力が隠されていることに気が付かなかったんだと思います」


「確かに私の中に魔族以外の魔力があるということを、

考えたこともありませんでしたし、

感じたこともありませんでした」


「もしカレンさんの中に的の魔力があるということがわかったら、

即放逐されていたか、

もしくは命を奪われていたかもしれませんので、

お母様はそれも見越していたのかもしれないですね」


「確かにサタンであればそれくらいのことは簡単にやるのかもしれませんが、

本当に私の中にそのような魔力があるのでしょうか。

母の魔力を感じたことはありましたが、

それと同じものを私の中に感じたことはないのですが……」


「何を持ってして魔族の魔力、人間の魔力、そしてエルフの魔力、

というのが違うのかというのは難しいところではあります。

魔属性の魔法を人間が使うことができないわけでもありませんからね。

ただやはり得意な属性というのはあるわけで、

魔族には魔属性に対応した魔力を持っているものが多いのではないでしょうか。

同じ火属性であっても少し効果が変わってきたりする魔法もありますから」


「確かにその通りです。

ではその私の中の魔力、人間やエルフの魔力がもしあるんだとしたら、

それは一体どうやったら使えるようになるのでしょうか」


「確かに今まで使ったことがない魔力を使おうとするのは難しいかもしれませんね。

私にはさっぱりわからなかったですから」


代田も今の話を不思議そうに聞いていたようだ。

その代田の疑問にゾードとザゴーロも大きく頷いている。


「今までカレン様に長くお使えしてまいりましたが、

緑箋さんのおっしゃるような魔力を感じたことはございません。

そうは言っても、私たちがカレン様が魔力を隠していたということも、

気がついていなかったわけですから、

もしかしたら、本当にそのような魔力があるのかもという、

想いもございます」


ゾードとザゴーロもカレンの中の魔力に気がついていなかったようである。

それもそのはずで、

魔族として当たり前の魔法を使うことができて、

しかもその魔法の威力が絶大だったのだから、

もうそれだけでも相当な実力者だと思われていたはずである。

そんな実力者がわざわざ自分の魔力を隠しているという疑問を持つ方がおかしい。

先入観というものに支配されてしまったら、

そこから抜け出すのはとても難しい。

ましてや自分の尊敬するような方を、

下のものが疑う余地など起こるはずもないのだ。

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