第472話 カレンの母親

カレンは間を開けるように、ふーっと息を吐いた。


「緑箋様のいうとおりでございます。

みなさまお気づきになられているようなので、

隠し事もできませんね」


ゾードとサゴーロは止めようとしているが、

それをやんわりと制した。


「いいんです。ありがとう二人とも。

サタンの近くから離れることができましたから、

もういいと思います。

私たちのことを受け入れてくださったのですから、

コオkは私も正直にお話ししなければなりません」


「お話しできる範囲で構いません」


「ありがとうございます。

緑箋様のおっしゃるとおり、

私は普段から魔力を隠すように躾けられております。

普通の魔族は魔力を誇示するようにというのが当たり前ですが、

私は母から隠して生きるようにと教えられて育ちました」


「お母様からでしたか。

やはり人間の血と言いますか、人間の感性をお持ちだったのですね」


「そうだったのかもしれません。

母もまたエルフと人間の混血でしたので、

うまく世の中とは折り合いがつかないで育ったと聞いております。

その珍しさから魔族に捉えられて、

サタンのもとに来たということでした。

そして私を産んだ後、

数年間私と共に暮らしておりました。

サタンとはほとんど会った記憶はございません。

母に会いに来ることもありませんでした。

母とそしてゾードとサゴーロと共に生活しておりました。

その時に魔力の制御を習ったのでございます」


「お母様からは魔力を見せないようにと言われたわけですね」


「今になればその意味がわかるようになりましたが、

当時は大好きな母の教えを守りたいという一心でした。

そのおかげもあって、私もサタンからの興味を失ったようでございます。

そしてそれは母も同じだったようで、

ある日サタンからの寵愛を失った母は、

魔王の城から追放されました。

私は一応娘という立場だったので、

追放は免れたようです。

私たちは母を探しましたが、

母は島からも追放されたようで、

私たちも島の外の情報を入手する手段はありませんので、

その後の足取りはつかめておりません」


「お母様のお名前はなんというんですか?」


朱莉が聞いてきた。


「フロールーンと申します。

今もその名を名乗っているかは分かりません」


「まあそうでしょうね。

そのままの名前で暮らすのは大変でしょうから。

一応こちらでも検索してみますね」


「ありがとうございます」


朱莉は端末で検索を始めたようだった。


「ではお母様を探すのも目的の一つなんでしょうか?」


幽玄斎が気になって質問したようだった。


「はい、それも今回の亡命の理由の一つでございます。

ただこれは私の個人的な事情ですので、

一番の問題ではありません。

一番は皆の無事を確保することが目的です」


サタンの娘ということで何不自由ない生活を行なってきたかと思っていたが、

他人にはわからない苦しみを抱えて生活してきたことがわかった。

それでももちろん恵まれた境遇ではあるのだろうが、

今回の亡命にはそういう複雑な心境もあったのだということがわかった。

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