第470話 遼香の計算と緑箋の読み
「でもまさか魔族をここに呼び込むとは思ってもみませんでしたよ。
遼香さんほんとに大丈夫なんですか?」
幽玄斎はまだどこか驚いているようだった。
「確かに、国の中枢ですからね」
代田も同調している。
「まあ幽玄斎の心配はわかるよ。
でも多分大丈夫なんじゃないかな」
遼香は落ち着いている。
幽玄斎は緑箋に話を振った。
「でもさ、緑箋君はなんでここに魔族を住まわせるって思ったんだい?
僕は今でも危ないんじゃないかって思っちゃってるんだけどなあ」
幽玄斎はどうしても遼香の思考についていけないようだった。
まあそれは当たり前のことである。
敵も敵、敵の本当の親玉の娘が今本部のすぐそばにいるのだ。
普通の感覚ではあり得ない話である。
「そうですね。
選択肢は色々あると思うんですが、
遼香さんならここだろうなって思ったんですよね」
「確かに遼香さんは突拍子もないことをやり遂げる人ですけど、
それにしたって凄すぎませんか?」
遼香は幽玄斎の言葉に苦笑いしている。
「幽玄斎さんの思ってる通り、
普通は反対しますよね」
「でも緑箋君はそうは思わないってことですよね?」
「まあ、単純に一番魔族にとって安全なところはどこかって話なんです」
「魔族にとってですか?」
「魔族だけではないですね。
魔族のいる地域といった方がいいかもしれません。
例えばもし気仙沼大島にそのまま魔族を暮らしてもらうとしたら、
島自体の危険はそのままですよね」
「まあ確かに、奪還に来るとかいう危険性はそのままですね」
「じゃあ他のところに移動させたらどうか。
相手がわからないから大丈夫という考えもあるでしょうが、
いつ場所を特定されるかわからないわけですから、
危険と隣り合わせになりますよね。
無人島とか山の奥地とかならば確かに人間の犠牲者は減るかもしれませんが、
それでも人里離れていればいるほど、
敵に狙われる可能性も高まると考えられます」
「そうですね。
人も魔族とすぐに仲良くなれると言われれば、
簡単にはいかないですしね」
「だから結局一番安全なのはこの空間なんですよね。
広大な土地があって、
人里はなくて、
魔族には住みやすい。
そもそもここへ侵入する方法が難しいわけですし、
ここを戦場になったとしても、
基本的には民間人には危険がないわけです。
さらにここには最大戦力がいるわけですから」
「誰だい、最大戦力って」
最大戦力が白々しく割り込んでくる。
「むしろここにいた方が安全だっていうことになるんですよ」
緑箋はちらっと遼香をみて笑った。
「なるほどなあ。そう言われればそうだけど。
それにしたってなかなかこの計画は実行できないもんだろうに
ほんとよくやりますよね。
さすがうちの大将ですよ」
幽玄斎は心底遼香のことを褒めているのだが、
どこかに呆れたような思いも言葉の端にあるような喋り方であった。
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