第463話 魔族たちの検査

緑箋たちが気仙沼大島に戻った時、

まだ魔族たちの検査が行われていた。

魔族たちにも大きな混乱はなく、

粛々と指示に従って検査を受けていた。

虐げられていた魔族たちなので、

おそらく抵抗する気力もないのかもしれない。

ただそれはそう言う話を聞いていたから思うのであって、

その話を聞いていなければきっと恐ろしい魔族だと思っていただろう。

目に見えていることは真実だと思い込んでいるが、

こんなにも色々なことに作用されていることを緑箋はよくわかっていた。

だからこそ自分の先入観にとらわれずに、

なるべく何も考えずに見るようにすることを心がけている。


例えばとても力が強そうな敵がいたとして、

その敵がただの力の強い近接系かどうかはわからない。

近づかなければ大丈夫だと思って油断してしまったら、

遠くからの攻撃にやられてしまう。

また見た目が老人だからといって力が弱いとも限らない。

魔法の世界では勘違いは命取りである。

見た目の情報に騙されないようにすることが必要なのだ。


緑箋たちは臨時の施設に帰ってきた。


「朱莉、お疲れさま」


「ああ、遼香さん、みんなもお帰りなさい。

どうだった、面白い話は聞けたかな?」


朱莉は疲れも見せずにみんなのことを気遣ってくれた。


「はい、いろんな楽しい話を聞けました。

私のことも少しわかったような気がしました」


たえは嬉しそうに答えた。


「よかったね、たえちゃん」


朱莉はそう言って笑った。

朱莉も今回のことは知っているのだろう。

というか今回のことをお膳立てしたのは多分朱莉なのだ。

この手の根回しをさせたら朱莉に敵うものはいない。

しかし朱莉はそのことを周りに吹聴しない。

緑箋はそんないつも明るい朱莉のことを尊敬している。


「それでどうだい、魔族たちは」


「はい、もう大体終わりましたけど、

九割九分は大丈夫ですね。

まあ我々が知らないものがあるかもしれませんので、

完全に大丈夫だとは言い切れませんけど。

ね、幽玄斎さん」


「はい、大方は大丈夫だと思います」


「じゃあ予定通り行けそうだな」


「本当にいいんですか?」


「朱莉は駄目だと思うか?」


「ああー、質問に質問で返しちゃ駄目でしょうに。

まあでもそう言われると難しいところはありますが、

私個人の見解としては遼香さんと同様ですね。

一番いいとは言い切れませんけど、

最善ではあるかなと」


朱莉も何か葛藤しているようだった。

そこへ流小野が入ってきた。


「お疲れ様です。

今全員の検査が終わりました。

全て正常です」


「ありがとう、お疲れ様。

それじゃあこれで決めるとするかな。

悪いが、カレンを呼んでくれるかな」


わかりましたと言って流小野はカレンを部下に迎えに行かせた。

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