第462話 妖怪と人間と緑箋と

「遼香さんありがとうございました。

とても楽しかったです」


「たえちゃんが着いてきてくれたから、

いろんな話が聞けたね。

私も前から話が聞きたかったんだが、

いい機会になったよ。

ありがとう」


おそらく遼香はたえのことを元気つけたかっただけだろうが、

それもうまく自分のためにも利用して、

貴重な話を引き出していた。

きっとこれも遼香の力を高める機会になったのだろう。

もちろん緑箋にとっても貴重な話だった。

今回は河童に会えなかったのは残念だったが、

おそらくこの話は河童たちにも届くのだろう。

遼香の狙いはそう言うところにもあったはずである。

河童たちの力を借りることももしかしたらあるかもしれない。

全国に広がる河童たちの力もまた強力なものなのである。

魔族と対抗するためには、

人間たちの力だけでは足りないかもしれない。

遼香はきっとそれを理解して、

全国を駆け回っているのではないだろうか。

緑箋は遼香の頭の中は全くわからないが、

一緒にこうやって行動をしていると、

なんとなくそういう遼香の思いが伝わっている気がしていた。

でも本当に遼香はいろんな強敵と戦いたいだけなのかなと、

その懸念は消えないのだった。

だがなんにしても遼香の行動が今の日本をいい方向に進めている、

そのことは確かだろうと思っていたし、

それは日本に生きる全てのものにとっていいことなんじゃないかと思っていた。

妖怪たちが街で普通に生活しているところをよく見かけるようになったのも、

そう言う遼香の働きが多い。

妖怪たちと一緒に日本を守るようになってきて、

双方の交流が深まり、

そして双方の理解が深まっていっているのだ。

人種どころか、存在が大きく違うものたちが、

手に手を取り合うようになってきているのは、

とても素晴らしいことである。


緑箋もこの世界に来て多くの人間以外の存在と戦って、

そして心を通わせてくることができた。

前の世界では人間とうまくいかなかった緑箋が、

今は妖怪たちとこんなにも深く繋がっているし、

さらに今の緑箋の周りにはとても素晴らしい仲間たちもいる。

もしかしたら前の世界であっても、

緑箋のことを気にかけてくれた人はたくさんいたのかもしれない。

ちょっとしたすれ違いと、緑箋の心の向き方によって、

それが感じ取れなかっただけなのかもしれない。

緑箋はこの世界てたくさんの人に助けられて今ここにいることを感謝し、

そのことがわかったことで、

前の世界の人たちにも少しだけ感謝してもいいのかもしれないと思い始めている。

それは緑箋にも気がついていないほどの小さな変化だったが、

実はとても大きな変化である。


そんなことを考えながら、緑箋はみんなと一緒にまた気仙沼大島へ帰った。

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