第461話 たえと亀婆と代田と
貴重な話をたくさん聞くことができて、
みんなはとても喜んでいた。
一行はお暇しようとすると、
おかみさんが慌てて引き留めた。
「ちょっとお待ちください!
お昼をご用意しておりますので、
もしお時間がおありでしたら、
召し上がっていただけないでしょうか」
そこまでしてもらってはと言いたいところではあるが、
すでに用意されているものを断ることも失礼である。
まだ時間はあるので、今回はご相伴に預かることにした。
おかみさんもこのまま返すわけにはいかないと、
必死に準備してくれたのだろう。
遠野といえば羊肉ということで、
羊肉を焼いたものを出してくれた。
野生み溢れる味と思ったが、
それほど癖が強くないのに、
味はしっかりしていて、
柔らかくてとてもおいしかった。
新鮮な証拠であろう。
さらにこのあたりの名物のお蕎麦も添えられていた。
わんこそばが有名なのだろうが、
しっかりとしたざるそばを出してくれた。
魚の出汁がしっかり聞いたつゆも絶品で、
美味しくいただくことができた。
ここでこんなに美味しいお昼が食べられると思っていなかったので、
緑箋たちはお話と共に、
食事も大いに楽しむことができた。
「本当に何から何までありがとうございました」
「いえいえ、こんなことしかできませんで、
本当に申し訳ありません」
おかみさんはまだまだ遼香に恐縮しているようだった。
国のお偉いさん、
しかも軍の大将がこんなにふらっと現れるのだから、
驚くのも当たり前である。
しかしおかみさんとは対照的に亀婆さんは楽しそうに笑っている。
帰り際に亀婆さんが質問をしてきた。
「ところでお嬢さん、お名前はなんていうんだい?」
「私はたえと申します」
「そうか、ここの皆さんと一緒に暮らしているのかい?」
「そうです」
「じゃあみんなに大切にしてもらわないといけないね」
「はい、皆さん親切にしてくださっています」
「ほほほほほ、じゃあ大丈夫そうだね。
たえちゃんも頑張りなさいよ」
「ありがとうございます!
亀さん、また遊びに来てもいいですか?」
「もちろんだよ。
いつでも遊びに来なさい。
今度は一人できてもいいからね」
ほほほほほと亀婆さんは笑った。
緑箋たちは亀婆さんとおかみさんにありがとうございますと告げて宿を後にした。
なんだかとても晴れやかな気持ちになった。
「遼香さん連れてきてくださってありがとうございます」
たえはすぐに遼香にお礼を言った。
「たえちゃんが喜んでくれて良かったよ」
「はい、いろんな仲間のお話が聞けて嬉しかったです」
一人で困っていたたえに、今はこんなに仲間が増えたけれど、
座敷わらしが自分が一人だけではないということが知れて、
また一つ安心材料が増えたと感じていた。
そして亀婆さんに会えたこともたえにはとても貴重な体験だった。
「それにしても亀さん本当に元気でしたね。
なんかたえに似たような雰囲気もありましたね」
「まあそりゃそうだろう。
なあたえちゃん」
「ふふふ。そうですね」
たえと遼香申し合わせたようにして笑い合った。
「え、ちょっとどういうことですか?
緑箋さんも、って、わかってるんですね。
えー!ちょっと私だけなんか除け者じゃないですか」
代田は困ったように頭を抱えた。
その様子を見てみんなは笑顔になった。
代田も何故か仕方ないなあという感じで笑顔になった。
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