第460話 遠野の座敷わらし

亀婆さんはさらに話を続けた。


「あとはそうだな。

うちにもいるんだが、

座敷わらしっちゅう話がある」


「座敷わらしですか!」


代田が驚いて声を上げた。


「どうしたそんなに驚いて」


「いえ、詳しいお話を聞かせてください」


「ああ、いくらでも聞いてっておくんなさい。

座敷わらしっていうのは遠野にもよく話が伝わってるが、

岩手では他のところにも同じような話が伝わってる。

座敷わらしが家に住んでくれると、

その家が裕福に幸せになるっていう話だ」


「それは私たちも知っております」


代田は嬉しそうに答えた。


「そうか。あんたのところまで話は届いてるんか。

今は座敷わらしがいるという宿があって、

そこに泊まると幸せなれるっている話もあるな。

遠野には他にも一軒そんな宿があるよ」


「そうなんですね」


「ああ、でも遠野ではまたそれとは違う話も残っておる。

遠野の場合は逆の話でな」


「逆の話ですか?」


「そうなんだ。

座敷わらしが住んでいて裕福になった家があったんだが、

ある日その家の座敷わらしが外で見掛けられたんだよ」


「外でですか。

どっかにお出かけとかですか?」


「まあそういうことだな。

座敷わらしを外で見掛けたということは、

座敷わらしがその家から出てしまったということだ。

座敷わらしがいなくなった家は、一家全滅してしまったという話も残っておる」


「そんなことが……」


たえが衝撃を受けている。


「そうなんだよ。

だから、安心しないでしっかり座敷わらしを大切にせにゃいかんという話だな。

うちの座敷わらしも普段は姿を見せんのだが、

毎日ご飯とお水をあげて、

大事にするように心がけておる」


「きっとここの座敷わらしは喜んでいると思います」


たえは満面の笑みで答えた。


「そうかそうか、お嬢ちゃんにはわかるんだね。

座敷わらしは子供にしか見えないという話もあるから、

お嬢ちゃんだったら見えるかもしれないね」


ほほほほほと亀婆さんは笑った。

緑箋は気になって一つ聞いてみた。


「亀さんはもしかしたら座敷わらしを見たことがあるんじゃないですか?」


「ああ、遠い昔の話だがね。

子供の頃に一緒に遊んだ記憶があるよ。

いっつも楽しく一緒に遊んでおった。

家の外の庭で遊ぶのだけは絶対に拒んだけどな。

きっと家の外に出たらいけないということを知っていたんだろう。

この家を守ってくれたんだよ。

だから私は今はもう会えなくなってしまったけれど、

今も大切に思ってるんだ」


亀婆さんはどこか寂しそうな顔をしながらも、

顔はにこやかに笑っていた。


「大丈夫です。その気持ちは伝わってます」


たえがそういうと亀婆もにっこり笑った。


「お嬢ちゃんにそう言われると本当にそう思えるね。

ありがとう」


「亀さん、大変貴重なお話をたくさんありがとうございました」


遼香がお礼を言う。


「ババアの話を聞いてくれてこっちの方がありがたいよ。

来てくれてありがとうね」


亀婆はそう言って頭を下げた。

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