第456話 遼香が連れてきたかった場所
遼香、緑箋、代田、たえの四人は転送装置へ向かう。
遼香は場所を見せないようにして、四人は移動する。
移動した先は先ほどの海の近くとは違って、
山に囲まれた盆地だった。
近くには川が流れていて、
すぐ南の山の上にはこれまた天守閣が見下ろしている。
日本全国こんなに城があるものだなと、緑箋は思った。
「さあ、今日はここが目的地だ」
遼香は嬉しそうである。
「ここはどこでしょう。
大きなお城がありますね」
流石に代田もたえもここがどこかわからない。
緑箋がなかなか答えないので、遼香は緑箋の顔を見つめる。
緑箋はこの期待している遼香に対して答えた方がいいのか悪いのか悩んでいる。
「緑箋君。素直になりなさい。
思ったことを言っていいんだよ」
遼香は嬉しそうである。
「あの城の名前はちょっと忘れちゃったんですけど、
多分ここは遠野ですよね。
遠野城じゃなかったはずなんですよね。
なんだったけなあ」
そう悩んでいる緑箋の答えを聞いて、
遼香は心底がっかりしているようだった。
相変わらず緑箋は答えてしまうのだ。
「あれは鍋倉城だ。
山城の中でも立派なものの一つだ」
標高、約340メートルの鍋倉山の山頂に立派な天守閣が立っている。
二の丸、三の丸が南北を守っている山城である。
前の世界では明治までその姿を変わらずに見ることができた珍しい城であったが、
1872年(明治2年)に廃城となってしまった。
現在は公園として整備されて、前の世界では親しまれている。
そんな鍋倉城を中心にして、麓には城下町が広がっている。
今回は城へは行かずに、
城下町の方へ進んでいく。
その中で少し大きめの建物の中に入っていく。
宿屋だった。
中には恰幅の良いおかみさんが出迎えてくれた。
「これはこれはようこそおいでくださいました」
「本日お話を伺うことになっておりました、桜風院と申します」
「あ!あら!申し訳ありません!
こんなふうにふらっとお越しになるとは思っておりませんでしたので、
どうぞ汚いところですが、お入りください」
おかみさんは遼香があまりにも自然にやってきたので驚いたようだった。
まあ確かにこんなふうに本人がそのままやってくるとは誰も思わないだろう。
川が見える美しい風景が見える広間に通してもらった。
「今すぐ呼んでまいりますので、
少々お待ちください」
おかみさんは大慌てでお茶を置いていくと、また広間を出ていった。
「随分と慌ただしいですね」
たえは少しだけ笑っている。
自分に置き換えてみるとおかみさんの気持ちがわかるのだろう。
「遼香さんがあんなふうだからだよ」
代田もそう言って笑った。
「なんだなんだ?私は何も変わったことはしていないぞ」
遼香はそう言って不満そうにしていた。
もちろん遼香は何も間違ったことはしていないのだが、
分不相応の行いをしているのはしているのかもしれない。
だが自然に行動することが悪いわけではないので、
たまにこういうことになってしまうのは少しだけ可哀想ではある。
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