第454話 たえも安心

食事を楽しみながら、たえにも少しだけ状況を伝えてあげておく。


「魔族の皆さんはそういう目的だったんですね。

じゃあもう今回は戦うのはなさそうなんですか?」


なんだかんだ言ってもたえは戦ってみんなが傷つくことを恐れていた。

どんな形にせよ、戦闘をしなかったこと、

そしてもう戦闘がないということにほっとしていた。


「そうだよ、たえ、もう心配はいらないからね」


代田の言葉にたえもようやくホッとしたようだった。

カレンについては詳しい話はしていない。

カレンがサタンの娘だということを知っているのは、

あのときにいた関係者だけなので、

十名に満たない人間しか知らない情報である。

ただこれは無駄な争いを避けるという目的であるだけであり、

別に口外禁止にされたということでもない。

そもそも人間の方で情報を遮断できたとしても、

今回亡命してくる魔族たちは数百に上る。

この全てから記憶を奪うことも可能であるが、

それをしてしまうと信頼関係を築くことはできなくなる。


通常の考え方から言えば、

サタンの娘が亡命するということ自体あり得ないことであり、

どう考えても怪しいという話になるわけで、

そこを慎重に話を進めるというのは当たり前の話である。

すんなりと話が進んでいるのは、

責任者である遼香が自ら指揮をとっているからである。

緑箋にもカレンが嘘をついているのかどうかはわからない。

疑い出したらキリがない。

そこで緑箋は考えるのを放棄し、

今流れるままに委ねることにした。

そしてもし問題が起こるのであれば、

必ず対処するという覚悟を決めていた。


ただカレンの今までの行動から、

カレンを信用している、

もしくは信用したいという気持ちを緑箋が持っているというのも確かである。

心臓に刃を突き刺そうとしたのであるから、

カレンはもしかしたら死んでいたのかもしれないのだ。

なので、カレンがここまで嘘を突き通しているとしたら、

それはそれで仕方がないことだなとも思っている。

緑箋が人の目を見る目がないというのはそうなのかもしれないが、

この世界に来て、緑箋の前には素晴らしい人たちしかいなかった。

ならば今ここでも信じてもいいのだろうという気持ちでいた。


緑箋がそんなことを考えていると、遼香が明日の予定を話し始めた。


「明日はちょっと二手に分かれて行動したいと思っている。

朱莉と幽玄斎は今日の続きで、魔族たちの検査の方を手伝ってもらいたい。

それで私とたえちゃんと代田、そして緑箋君は別行動を取らせてもらう。

夕方には合流したいと思っている」


「それはいいんですが、魔族たちの方の今後のことは決まっているんですか?」


幽玄斎が遼香に質問する。


「ああ、それについても今朱莉に確認をとってもらっている。

明日には答えが出ると思う」


「まあ遼香さんの思う方向に話は進めていますが、

細かいところはまた決まってからお話ししたいと思います」


朱莉は珍しく少しだけ心配そうな顔をしているが、

遼香はそれに大きく頷いて大丈夫というようなそぶりを見せた。

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