第450話 心臓一突き

「龗、魔力を借りるよ」


緑箋は龗の頭を撫でると、

龗は全て理解しているように、

緑箋の肩から移動して手のところに頭をつける。

そして刀を握る緑箋がはっと一息入れると、

龗も一緒に刀に魔力を注ぎ込んでいく。

鞘に収まっている無月が光り輝いているようにも見えるし、

その光が周りの光を吸収しているようにも見える。


龗は少し疲れたような顔をして、また緑箋の方に戻っていく。

龗は声を発することはないが、

どこかもう大丈夫だよと言ってくれている気がした。


緑箋は薄い服一枚で寝ているカレンの横に立つと、無月を上段に構える。

そしてスーッ心臓を目掛けて振り下ろす。

刀の先に集中して、肋骨を避けて心臓に触れる。

その瞬間、サタンの紋章が激しく光り輝き、

傷口から光線が漏れる。

その光線が当たった部屋の壁や天井が一筋、

切り取られたかのようになくなって、

そこから闇が姿を見せていた。


光は一瞬で消え、

サタンの紋章も消えたことを感じ取った。

緑箋はまたすっと刀を上に上げると、医療班を呼んだ。


「お願いします」


即座に医療班が部屋に入り込み、

一斉に回復魔法をかける。

刀の切先ほどの傷口に回復魔法をかけるが、

回復魔法ややはり効果が薄い。

血の量は多くないし、魔力の漏れも少ないが、

傷口は塞がっていかない。

遼香たちも部屋に入ってきてことの成り行きを見守っている。


「やはり無理なようだな」


魔族の回復力を失わさせるとともに、

魔法の回復効果も遮断する。

魔族にとってこれほど厄介な効果はないが、

こうなってしまうと魔族を回復することもできないのは、

今は大問題である。


「これ、大丈夫なんですか?」


幽玄斎もこの状況に慌てている。

すぐにどうこうなるわけではないが、

このままでは危ないと言うのは誰の目から見ても明らかである。

しかし医療班たちが動揺しているのとは対照的に、

遼香も緑箋も冷静に現場を見つめていた。


「緑箋君、やってくれ」


「わかりました」


遼香に言われて緑箋はまた前に出る。

静かにカレンの傷口に手をかざす。


「チユミン」


そう呪文を唱えると、傷口が閉じていき、出血が止まった。

医療班が確認すると、内部まで傷が塞がっていることが確認できた。


「これは一体。

回復魔法は全く効かなかったのに、どう言うことなのでしょうか」


医療班はこの自体に動揺している。


「これもカレンは運が良かったってことだよ。

魔法とは違ったことわりで回復できる人間が、

魔族特効の武器を持ってるんだからなあ」


遼香はそう言って緑箋に微笑みかけた。


「なんだ、初めから二人ともわかっていたんですね。

じゃあ緑箋君ももったいつけないで回復させたら良かったんじゃないですか?」


幽玄斎のいうことももっともである。


「それはそうなんだが、

まずは医療班の高度な回復魔法に委ねたほうがいいだろうと思ったんだよ。

傷口も小さいし、すぐに生死に関わる問題ではなかったからね。

だがやっぱり効かないとわかったから、

緑箋君に頼んだんだよ」


「一応これも試してはいたんですが、

魔族本体に実践するのは初めてでしたからね。

実験するような感じになったのは申し訳なかったですが、

かなり高い確率で成功するという算段はあったんです」


緑箋はそう言って実は緊張していたのか、

うまくいったことにホッと胸を撫で下ろした。



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