第449話 無月と緑箋
無月の能力を使った魔族特効の攻撃は、
魔族の脅威的な回復力を阻害する効果もあるため、
傷を治すことができなくなってしまう。
また魔族の魔法効果を消すためには、
直接攻撃をしなければならないため、
傷をつけずに魔法効果を消すということもできない。
一瞬で刺した後、心臓の表面に刻まれているサタンの紋章に触れるという、
繊細な刀捌きが必要になってくる。
これは刀の名手でもある幽玄斎でも難しい操作が必要になってくる。
緑箋はまずカレンの心臓のサタンの紋章について魔力を読み取る。
「やはり心臓の中まで紋章の効果があるわけではないようです。
心臓に紋章が貼られているという感じでしょう。
皮膚を剥ぎ取るように、
これを剥ぎ取るということは至難の業でしょう。
ただ位置はこれで確認できましたので、
そこは大丈夫かと思います」
緑箋は遼香と幽玄斎とともに綿密に打ち合わせをした。
念の為医療班を呼び、
麻酔のように痛覚を遮断してもらうことにした。
あれよあれよというまに話が進んでしまって、
魔族たちは呆気に取られている。
本当に無事に終わるのかという心配の方が大きいのかもしれない。
しかし時間をかけている場合でもない。
いつ魔王たちに気が付かれてしまうかわからないのだから。
一刻を争う事態ではある。
「準備は整いましたが、
カレンさん今一度伺います。
これまでお話した危険性を理解された上で、
今回のサタンの紋章を消すために、
心臓まで無月を到達させても本当によろしいでしょうか?」
緑箋は静かに落ち着かせるように聞いた。
「初めてお会いしたあなた方は私たちのことを信用して受け入れてくださいました。
今度は私が皆さんのことを信じる番です。
皆さんが真剣に私たちのことを思っていることは痛いほど伝わっております。
もし失敗しても後悔はございません。
よろしくお願いします」
カレンはそう言って微笑んだ。
「分かりました。安心してください。
失敗することはありませんから」
緑箋は自身を持ってそう言い切った。
緑箋にとっては珍しいものの言い方である。
これは単純にカレンを安心させようという心遣いからだけではなく、
自信の表れでもある。
今まで幽玄斎たちと共に何千何万回と剣を振ってきた。
緑箋は自分の剣術の未熟さを補うためには振るしかないと考えていた。
幽玄斎が子供の頃から降ってきた数を、
今この時期に追いつけばいい、
追いつくためには幽玄斎の何倍も降ればいいだけだ、
そう思って、訓練室という素晴らしい設備にも助けられながら、
刀を振り続けてきたのだ。
こういう時に役に立たないで、
いつ役に立つ時が来るのか。
敵を斬るのではなく、
敵を助けるために無月を使うことができるのだ。
こんなに嬉しいことはないと緑箋は思っていた。
「ではすぐにやりましょう」
カレンに麻酔をかけたようにして寝かせると、
部屋の中にはカレンと緑箋の二人だけにしてもらった。
そして無月に龗と共に魔力を注入する。
実のところ緑箋だけの魔力ではなく、
龗の魔力も借りることで、
魔族特効効果が上がることはわかっている。
無月の準備が整った。
緑箋はふうと一息ついて刀を構えた。
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