第444話 カレンの想い

流小野は少しだけ冷静になりつつも、質問を続ける。


「はっきり申し上げると、魔王とは言わないまでも、

魔族としては相当高い位にある方とお見受けしますが、

そのようなかたがなぜ今回のような行動を取られているのでしょうか?」


「先ほども申し上げました通り、

魔族の中でも虐げられているものは多くおります。

そして魔族だからこそおそらく皆さんの世界よりも、

もっと酷く虐げられておるものが存在しております。

本当にもののように扱われているわけでございます。

魔族とは魔力の社会であると言われればそうなのですが、

あまりにも酷い扱いをされているものが多くいるわけでございます。」


「あなたもその中の一人というわけですね」


緑箋の呟きに流小野が反応した。


「魔王の娘ですよ?

それならば相当の地位にいたと考えるのが普通ではないでしょうか」


「もちろんそれはそうでしょう。

魔王の娘というだけで周りからは腫れ物を触るような扱い、

言い方が悪ければ、大切な存在として扱われてきたと思います。

しかしその出自が問題です」


「出自ですか?」


「そうです。想像で申し訳ありませんが、

いわゆる忌み子のような扱いをされてきたのではありませんか?」


「その通りでございます。

そのまま態度に表す方はそう多くはありませんが、

他の魔王様の中には、

ゴミを見るような目で見られる方も少なくありません。

また父の本心もそのような面が見受けられます」


自分の選んだ相手との子供とはいえ、

子供は子供で別な思いが生まれてしまうのだろう。


「サタンという後ろ盾があるにもかかわらず、

複雑な対応をされ続けているということですね」


「私はまだ恵まれておりますので、

私などが不幸を語るのは筋違いかと自分でもわかっております。

しかしながら、今回連れてきた仲間たちの境遇を思うと、

このような行動を取らざるを得なくなってしまったのも事実でございます」


カレンはこの世の悲しみを全て受け止めているような辛い顔をした。

流小野は天井を見つめてどうしたものかと悩んでいる。


「お話は分かりましたが、

対応をどうしたらいいのか、

いくら考えても分かりません。

あなた方の話が本当だとしても、

今こちらであなた方を受け入れた場合、

というか、カレンさんを受け入れた場合、

魔族の大群はこちらにやってくることが想定されます。

大戦争になりかねない」


「おっしゃる通りでございます。

私は今回他の仲間たちの亡命だけを望んでおります。

確かに逃亡、亡命というのは魔界でも許されることではありませんが、

今いる仲間たちは魔族にとっては取るに足らないもの。

わざわざ奪還や粛清のために軍を派遣することはありません。

私はそれが叶うのであれば、

このまま魔界に戻ります」


「ちょ、ちょっと待ってください。

カレンさんがもし魔界に戻ったらどうなりますか?

サタンの娘といえども、罪は免れないのではありませんか?」


「覚悟はできております」


カレンは詳細を語ることはなかった。

殺されてしまうようなことはないのかもしれないが、

それ相当の罰を受けることは予想されている。

それも我々が想像できることをはるかに超えるような罰が。


室内は重い空気で押しつぶされそうだった。

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