第443話 カレン
「そういうことか……」
流石の遼香も言葉を失っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。
あなたは魔王の娘なんですか?
魔王って言ってもたくさんいると思いますけど、
どの魔王か伺ってもいいですか?」
流小野は狼狽しているが、
それ以外の周りの人間たちはもっと狼狽している。
その中で一人、遼香だけは冷静だった。
「サタンの娘だな?」
「桜風院様のおっしゃるとおりでございます」
「サタン!?」
流小野が素っ頓狂というのはこのことかという裏返った声で叫んだ。
サタンとはこれまた最上級の名前が出てきた。
前の世界でもサタンは悪魔の王、魔王の中の魔王である。
旧約聖書において、サタンは当初、神のそばに仕える高位の天使だった。
知性と美貌を兼ね備え、神からも信頼されていた存在だったが、
その力故、サタンは、神の地位を奪おうという野心を抱き、神への反逆を企てる。
この戦いに敗れたサタンは天から追放され、
堕落した天使、すなわち悪魔となった。
エデンの園では、
サタンは蛇の姿になってイヴを誘惑し、禁断の果実を食べさせた。
アダムとイヴは楽園を追放され、
人類は罪と死を背負うことになる。
この人類の原罪は、サタンはもたらしたこととなっている。
そう言った意味でサタンは神の敵であり、人間の敵なのである。
ちなみに七つの大罪では憤怒の悪魔である。
さらにめんどくさいことに堕天使ルシファーと同一の存在ともされるが、
この世界では別の存在となっている。
堕天使が多いという話はまた別の話である。
この世界でもそんなサタンは悪魔の王として君臨している。
言ってみれば敵のラスボスということになる。
ふうと一息ついて遼香が質問する。
「話には聞いていた。
サタンに娘がいるということを。
しかも母親は人間とエルフの混血の娘だったはずだが」
確かにカレンの耳は尖っている。
エルフの耳が尖っているのはこの世界でも同じだ。
同じというか前の世界にはエルフは存在しないわけだが、
エルフといえばエルフ耳という尖った耳になっている。
ちなみに前の世界で、エルフの耳が尖っているというのは伝承に出てこない。
今のエルフはトールキンによって形作られたと言っていいと思うが、
トールキンの指輪物語などの話にエルフの耳が尖っているという話は出てこない。
エルフの耳を尖らせたのは、
「ロードス島戦記」のヒロインのエルフ、ディードリットのイラストを描いた、
出渕裕先生ということが定説になっている。
このディードリットのエルフのイメージが世界に浸透し、
今やエルフの雛形となっている。
言ってみれば伝説を塗り替えたということになる。
ものすごい話である。
まあそんなことを言ったら、塗り壁はぬりかべーと話すようになっているわけで、
圧倒的なイメージは全てを打ち消して塗り替えるということなのだろう。
閑話休題。
緑箋は話をまとめた。
「つまりカレンさんは魔王サタンと、
人間とエルフの混血の娘さんと、
二人の間に生まれた子供ということになるわけですね?」
「そのとおりでございます」
ハーフでもクォーターでもないが、
色々な血が混ざった複雑な子供ということなのだろう。
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