第442話 魔族たちの思い
「魔族と皆さんの関係は今さら私がお話しすることもありませんが、
全ての魔族が戦いたいと思っているわけではありません。
それはどの世界でも同じだと思いますが、
戦うのが好きな人もいらっしゃれば、
戦うのが嫌いな人もいらっしゃるのと同じです。
確かに魔族と皆さんの世界とでの風習や文化は大きく異なります。
生まれながらにして皆さんのことを敵だと思って生活していた私どもは、
逆に言えば皆さんにとっては敵になっているわけです。
そして実際に多くの犠牲者が出ています。
そんな皆さんが魔族のことを恨むことは当たり前かもしれません。
ですが、逆に私たちにとっても大切な仲間を犠牲にしたことを、
恨んでいるようなものも多くいるのは事実でございます」
「いやでも!」
流小野が言いかけたのを、遼香が止めた。
「どちらが先だったのかというのはもうわからない時代になってしまっているよ」
「生きるために何かを犠牲にして生きていくように、
我々はあなた方を犠牲にして、
そしてあなた方はそれを守るために戦っているということになっております。
実際に双方において、そう思っている方は多いでしょう。
我々魔族にとってあなた方は敵であり、
蹂躙していいものとして考えられております。
また同胞に関してもそれほどの執着がなく、
実際のところ、やられてしまうようなものは魔力の弱いものだ、
情けないものだと考えられるような世界でございます。
魔力こそが全て、そういう世界でございます。
そのような世界では魔力の弱いものに生きる資格はございません。
はっきり申し上げまして、
敵である皆さんよりも下に見られるような有様でございます。
戦いにおいては弾除け程度にしか思われておりません。
今回私についてきたものどもは、
そういった魔界では満足に生きられないものたちでございます」
「そういうことですか。
それで魔界を逃げてこちらの世界へ来たということなのですね」
「都合のいい話ばかりではございますが、
今回私とともに来たものどもはそのような魔力の弱いものどもばかりでございます。
今、真剣に皆さんと戦闘になった場合、簡単に全滅してしまうでしょう。
それは桜風院様にはお分かりになると思います」
カレンは真っ直ぐに遼香を見つめた。
その漆黒の瞳は遼香の魂まで見つめているようだった。
遼香は身じろぎ一つせずにその瞳を見つめ返した。
流小野が一つ咳払いをする。
「カレンさんがおっしゃっているように、
あなた方の分析はこちらで行なっておりました。
おっしゃる通りの分析をしておりました。
しかし何があるかはわかりませんので、
警戒を怠ることはありませんでしたが。
こういう話になるとは思いませんでした」
誠に申し訳ありませんと、カレンは頭を下げた。
「カレンさん。
あなたの話している話は嘘ではないだろう。
ただあなたはまだ話してないことがあるね。
確かに今いるあなたの仲間たちの力は大したことはない。
だが、あなた一人の力はそうじゃないだろう。
あなた一人でこの部隊を全滅するような魔力を持ってるんじゃないか?」
遼香の言葉に流小野が驚愕の顔を向ける。
カレンは表情ひとつ変えていない。
「桜風院様のおっしゃる通りであります。
これは隠しているわけではありませんが、
お話しても受け入れられないと思いまして、
まず先に私どもの状況をご説明申し上げました」
「それで、何が言いたいんだ?」
遼香は静かに聞いた。
「私は、魔王の娘です」
カレンの静かな声が鋭く闇を切り裂いていった。
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