第420話 食堂に仕掛けられた罠

守熊田と緑箋たちは、懐かしい話や、最近の話を交換しつつ、

お菓子に舌鼓を打っていた。

代田の話をすると、

流石に百連錬磨の守熊田も驚いていた。


「そんな仲間ができたら頼もしいなあ。

代田さん、緑箋たちを守ってくれ」


そう言いながら代田の肩をポンポンと叩く。


「もちろん私ができる限りのことはしますが、

きっと多分守られるのは私の方だと思います。

ほんとすごいんですから」


代田はそう言って狸合戦のことを話し出した。

代田は代田であの騒動のことで相当興奮していたらしい。

いつにも増して饒舌である。

あの興奮を聞いてくれる相手が欲しかったのだろう。


そんなふうに和気藹々と食堂で4人が話の花を咲かせていると、

急に窓の外が暗くなり始めた。

いきなり食堂の明かりも消え、

真っ暗になった。


「大丈夫だ、安心してくれ、すぐ明かりをつけるから」


そう言って守熊田が明かりを灯そうとするも、

うまくつかないようだった。

そもそもまだ夜でもないのにこんなに真っ暗になるのはおかしい。

しかも魔力で構成されているはずの明かりが消えるのもおかしい。


「大丈夫ですよ、守熊田さん。

とりあえず私が明かりつけますから。

朱莉だけに」


笑っていいのか悪いのかわからないことを言いながら、

朱莉は明かりを魔法で灯そうとする。

すると食堂の床が光り輝き出した。


「朱莉さんすごい魔法ですね」


代田が驚いている。


「違う、私はこんな魔法使ってないよ」


「え?じゃあこれは」


二人の驚きの声を嘲笑うように、

食堂の床には光の魔法陣が浮かび上がる。


「これはやられた。

転移魔法ですね」


緑箋はそう呟いた。


転移魔法、瞬間移動の魔法というのはこの世界ではかなり難しい魔法の一つである。

前にも書いたが、

敵の後ろに一瞬で出現するというようなことは、

この世界では基本的にはできないと考えた方がいい。

瞬間移動ではなく、ものすごい高速移動と考えればできないこともないが、

それくらい瞬間移動というのは難しい。


例えば東京から大阪に移動する魔法を唱えた時、

基準はどこになるのかというのが問題になる。

地図上では地点の移動となるかもしれないが、

実際、大地は回転し、さらに言えば宇宙に浮かんで大地そのものが動いている。

そんな数値で移動しないで、

思い描いた場所に移動したらいいという考え方ももちろんある。

だがその場所に新しく建物が作られていた場合、

建物の中に出現することにもなってしまう。


ということでこの世界ではあらかじめ決められた場所に、

転移装置を置いておくことで、

転移装置間で移動するという方法が取られている。


で今回であるが、

その簡易版の転移魔法がいま発動しているわけである。

あらかじめ決められた場所に移動できるようになっているのだろう。

個人的にこの形が使われることはある。

家に転移先を置いておくことで、

出先から一瞬で帰るなどのように使うことがよくある。

この設定をしておけば、

いざという時にも帰れるので便利だ。


ということで罠としてこの転移魔法を使われることはほとんどない。

転移魔法が仕掛けられて、

どこかの敵の真ん中に強制移動させられることになるかもしれなかったら、

自分も転移魔法を使って自宅に帰ってしまえばいいからである。


今回は誰が魔法を仕掛けたかはわかっているので、

4人はそのまま食堂から姿を消した。

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