第419話 久しぶりの白龍寮

朱莉は懸命に試飲を我慢しながら、

なんとかお店を出ることに成功した。


「よーし、じゃあ行こう緑箋君!」


朱莉は精一杯強がっていたが、

今振り返ってしまったらきっと我慢できないとわかっていたのだろう、

前だけを向いて先に進んで行った。

緑箋たちはそのまま学校へ向かった。

ただ学校が終わるのも、もう少し時間がかかりそうだったので、

緑箋は白龍寮に連絡を入れる。

守熊田はとても嬉しそうに、いつでも来いと言ってくれたのが、

緑箋は何かとても嬉しかった。

ということで白龍寮で待つことになった。


白龍寮の門の前に着くと、代田にも負けないような大きな男が待ち構えていた。

守熊田である


「おおー緑箋久しぶりやないか!

なんやちょっとおおきなったんちゃうんか!

龗も元気そうやな!」


守熊田は大きな指で優しく龗の頭を撫でる。

久しぶりだが龗もしっかり守熊田のことを覚えているようで、

とても嬉しそうである。

そしてそんな守熊田も嬉しかったのか、

珍しく関西弁丸出しである。


「朱莉さんもお久しぶりです。

それと代田さんやったかな?

代田さんは初めましてですね。

この白龍寮の寮長をやっております、

守熊田と申します。

今日はこんな遠くまでようこそお越しくださいました。

じゃあこんなところではなんですから、

お入りください」


守熊田は流石に客人に対してはしっかりとした対応を見せる。

巨大な門を片手で開けて、緑箋たちを白龍寮へ招いてくれた。

守熊田は食堂へ案内してくれた。


「いやー懐かしいですね。

まだ数ヶ月しか経ってませんけど、

なんだかすごく昔のような気もするし、

昨日のような気もします」


緑箋は感慨深い表情を浮かべている。

守熊田は冷たいお茶を用意してくれた。


「朱莉さんもいますが、

お酒というわけにもいかないので、

お茶で失礼します」


守熊田がお酒の話をするので、3人は目を見合わせた。

そして緑箋は笑いながら、鞄からお酒をドンと机に置いた。


「これ、お土産です。

灘のお酒です。

あとこっちは四国と三宮のお菓子です。

寮のみんなに出してあげてください」


「おおーこりゃいい酒じゃないか。

朱莉さんと代田さんには悪いけれど、

今ここでは飲めないからな。

後でこっそり楽しませてもらうよ。

それにお菓子のお土産もありがとう。

これは寮のみんなも喜ぶわ。

いやーわざわざすまんね。

ありがとう」


守熊田は嬉しそうにお酒を撫でながら、

奥に置きに行った。

ここにお酒を置いておいたら、

寮生に後で何を言われるかわからないからだろう。

守熊田は帰ってくると、お土産の代わりに茶菓子を持ってきて机に置いた。


「これは別の人からもらったんだが、

美味しいのでお礼にお裾分け。

本来なら、客人は応接室に通すんですけども、

ちょっと応接室が今使えなくて、

朱莉さんと代田さんには申し訳ないんだが、

この食堂でお願いします」


「いえいえ、全然気にしないでください。

我々はおまけみたいなものですから」


そう言って朱莉は丸い和菓子のようなものを一口で頬張る。


「甘さの中に、微かな柑橘系の香りが広がって、

甘いのに後味がすきっとしています」


朱莉は美味しいと言って顔を綻ばせた。

なんだかどこかで聞いたような言葉を、

この世界でもいうんだなあと思いながら、

緑箋も一口和菓子を食べた。


朱莉のセリフそのままの味だった。

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