第418話 お土産選びは酒蔵へ

ご飯を食べ終わった後、

三宮のお店でお土産を物色。

そんな中少し申し訳なさそうに朱莉が話しかけてきた。


「もう少し時間あるから、

もう少しお土産見てもいいかな?」


「もちろん大丈夫ですけど、

他のお店も見ますか?」


緑箋がそう答えると、

朱莉はさらに申し訳なさそうに、

小さな声で話し出す。


「他のお店といえば他のお店なんだけど……。

ちょっとだけ遠くにあるんだけど……」


どうにもこうにも煮え切らない。

朱莉にしては珍しい態度である。

そんな朱莉の態度を見ているうちに、

緑箋はピンと来た。

緑箋は代田に目配せをして、

ある商品を指すと、

代田も理解したようだった。


「朱莉さん、ここじゃないお店に行きたいってことですよね」


「そ、そうなんだけど」


「じゃあ行きましょう」


「え?緑箋君どこに行くかわかるの?」


「そりゃまあなんとなく、

ちょっと離れたというか、

隣町ですよね」


朱莉は緑箋にそう言われて頭を掻いた。


「バレちゃったか?」


「まあ、そうですよね。

ここまで来たら寄っていきたいですよね」


「あくまでも、お土産だからね。

お土産。

でも緑箋君よくわかったわね。

緑箋君は本当に物知りだなあ」


おそらく緑箋じゃなくても朱莉のことを少しだけ知ってるだけで、

だいたい見当がつく案件のはずである。


とりあえず三宮でお菓子などのお土産を仕入れた後、

三宮からさらに東へ向かう。

向かった先は灘、灘五郷である。

灘に広がった五つの酒造地域をまとめて指す名称である。

日本有数の酒蔵が集まっている。

六甲山から吹くの六甲おろしと、

六甲山から湧いてくる清らかな水が、

酒造りに適しているということである。


前の世界では江戸時代から灘で酒造りが始まったそうだ。

ただ阪神大震災の打撃は大きく、

昔ながらの土蔵なども破壊されて、

多くの酒蔵が廃業してしまったが、

徐々に元に戻ってきており、

今現在も有名メーカーが軒を並んでいる。

日本の4分の1ほどの酒の生産量を誇っている。

大関、宝酒造、白鶴酒造、菊正宗酒造、剣菱酒造、沢の鶴という名前は、

お酒が知らない人でも聞いたことがあるだろう。


そんな酒蔵が並ぶ場所が近くにあると言われたら、

朱莉が我慢できるわけもない。

それぞれのお店でお酒を買うことももちろんできるのだが、

今回は灘五郷の組合が集まってお店を出しているところで、

一度にお酒を見ることにした。

朱莉は、本来なら酒蔵巡りをしてお酒を飲みたいところではあるのだが、

流石に今回はそこまでやるのは我慢した。

お店でも試飲ができるわけだが、

それも懸命に我慢した。

緑箋と代田はそれを見ながら微笑んでいたが、

もう少しゆっくり見せてあげたかったなと思った。


流石にお酒をこのまま持って行くこともできないので、

朱莉と代田はいくつかまとめて見繕った後、

鳳凰寮へ送ってもらう手筈を取った。

緑箋は朱莉に2本選んで貰って、

これは学校へのお土産にすることにした。

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