第416話 結界の要

楠というのは大地から大きな魔力を吸収しているので、

結界の要として有用なのはいうまでもないが、

もちろんこの楠だけを結界の要にするというのは心許ない。

それこそ直接攻撃を受けただけで消滅してしまう。

そこで神社の神域というものがあるわけである。

巨大な力のところには寺社仏閣が建てられて神が祀られている。

人々が自然に集まりその中心となる場所になっているわけである。

そういう力の集まる場所に人も集まり、

その場所を護るということも寺社仏閣の役目なのだ。

ということでこの夫婦クスはこ伊弉諾神宮の力の一つの源であり、

その力を借りながら、その力を護っているわけである。

伊弉諾神宮全体でこの神域を守り、

そして結界を護り、

近畿を護り、

日本を守っているということになる。

結局は一つの力だけでどうにかなるものではない。

互いに補い合って強固な護りにしていくのが一番の近道になっているということに、

ここに来て緑箋はあらためて大切さを感じることができた。


人の命は儚くて、

それでもその想いは紡がれていく。

その思いを乗せて伊弉諾神宮の夫婦クスは、

今もなおその鮮やかな緑を輝かせていた。


「流石に近畿全体を覆うような結界の場所ですから、

力の流れが全く違いますね」


緑箋は誰に向かうでもなく思ったことを口にだす。


「魔力の渦みたいなものを感じますね。

これだけの力があれば、

まだまだ結界は大丈夫そうな感じがしますが、

そのあたりはどうなんでしょう」


代田もこの場の魔力の凄さを感じている。


「多分問題はないと思うよ。

楠の生命力も変化はないという話だし、

伊弉諾神宮自体もしっかりと整えられているからね。

信仰というのは結構大事で、

神社が荒廃してしまうと、

その土地の力も失われてしまうことが多いんだ。

信仰がなくなるのが先だったのか、

土地の力がなくなったのが先だったのかっていうのは、

ちょっとわかりにくいところもあるんだけどね。

ここはまだしっかり地域と密接に繋がりがあるから、

力の方は大丈夫だと思う。

問題は外からの攻撃だから、

これに関してはもっとしっかり監視体制を強化しないといけないかな。

結界が壊れたからといって、

すぐに被害が大きくなるってことはないんだけど、

壊されるということはそれが続くかもしれないってことだからね。

この辺りはどう折り合いをつけていくかってことになってくるんだけどね」


人数をかければいいというものでもないし、

人数を無限にかけられるわけでもない。

どのくらいの規模の攻撃に耐える設計にするのかも、

結局は経験則などから導き出すしかない。

それを超える攻撃を受けた時に、

いかにその被害を少なくできるかが勝負である。


緑箋たちは隊員や神主たちにお礼を言って、

伊弉諾神宮を後にした。

とてもいいものがみられたなと緑箋たちは晴れやかな気持ちになった。

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