第415話 結界の一つ

基本的に結界を作る時には縄などで囲って、

その中から外を守るというのが基本である。

その時の力は術者の力ということになる。

この世界には魔法があるので、

物理的な壁のようなものを作ることもできるが、

対魔法障壁として、

魔法を通さないような壁というのも作ることは可能である。


例えば悪魔が入れないような結界というのも同様であり、

その場合は悪魔が嫌がる空間を作るとか、

悪魔の魔力を排除するような仕組みにすることで、

悪魔から身を守るような結界を作ることができる。

それを護符でやるのか、魔法陣を描くのか、

それは術者によって変わってくるわけである。

結界と一言でまとめるのは簡単だが、

それぞれの考え方や伝統のやり方などによってその方法は多岐にわたるわけである。

個人個人の能力によって得意不得意が出るのは、

魔法においても同じなのだ。


では今回のように近畿を内包するような大きな結界を作る時に、

必要になってくるのがその土地の力となってくる。

流石に一人に術者の力によって全てを防御することは難しい。

過去には人柱や生贄といった方法もとられたが、

実際問題、非効率的であり、効果も薄いため、

そう言った方法は現在使われていない。


ということで伊弉諾神宮で緑箋たちが案内されたのが、

大きな楠である。

夫婦クスと呼ばれる巨大な楠である。

根元のところ(と言っても1メートル以上の高さだが)から、

見事に二つに分かれて伸びている。

樹高は30メートル以上あり、

幹周だけで8メートルほどもある大木である。


「こちらが結界の核となる場所であります」


管理している隊員が教えてくれた。

巨大結界を作る時には核となる部分が必要になる。

例えば山といっても山だけではなかなか結界になるのは難しい。

その中に岩とか木とかを核とするものを作ることで、

より結界が作りやすくなるのである。

人間にはわかりやすい目標が必要なのだ。


この伊弉諾神宮自体に巨大な魔力が溢れている場所であるので、

その一つの象徴としてこの夫婦クスが結界の核として使われているわけだが、

この神域全部が全て結界の核と言っても過言ではないのである。

なのでこの夫婦クスがもし破壊されることがあった場合でも、

そう易々と結界は壊れることはないのだが、

この神域の力をうまく結界に流れ込ませることができにくくなるのは事実である。

そう言った意味で重要な拠点であり、

この夫婦クス自体の生命力もまた絶えさせないことが、

近畿を守る上でとても重要になってくる。


こうして視察させてもらって、

この夫婦クスが今もなお力を持っていることは、

こうして近づいて見ているだけでもその息吹が感じられるので、

緑箋たちも安心した。


今回は狸たちのところに魔族の接触があったことがあったので、

そのあたりのことも隊員に確認したが、

今の所、伊弉諾神宮の結界に関しては問題がないということだった。


「いやでも本当にすごい力のある場所です。

ここ、もしかしたら代田さんも関係してる神社になってるんじゃないですか?」


「うーんどうでしょう。

そうだったかもしれないし、

そうじゃなかったかもしれません」


緑箋の問いに代田が答える。

国産みの際に代田がいたのか、

そもそも国産みがあったのかは謎のままである。

緑箋は答えは知らない方がいいこともあると、

巨大な楠を見ながら思った。


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